慰安婦問題について、いろんな報道: 中国の掌の上で踊り出した韓国、日本の無力化狙う韓国の「衛星外交」 。 「分水嶺の韓国」を木村幹教授と読む(3) 鈴置 高史

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2014年12月26日金曜日

中国の掌の上で踊り出した韓国、日本の無力化狙う韓国の「衛星外交」 。 「分水嶺の韓国」を木村幹教授と読む(3) 鈴置 高史

「早読み 深読み 朝鮮半島」
中国の掌の上で踊り出した韓国 「分水嶺の韓国」を木村幹教授と読む(3)
鈴置 高史  >>バックナンバー  
2014年12月25日(木) 2/7 3/7 4/7  5/7  6/7  7/7
前回から読む)
 中国は韓国を思うままに操り始めた――と木村幹・神戸大学大学院教授は言う
(司会は坂巻正伸・日経ビジネス副編集長)。
木村:中国の対韓外交が凄みを増しています。
もう韓国は、その意のままに操られているかのようです。
11月に北京で開かれたアジア太平洋経済協力会議(APEC)で、それが鮮明になりました。
「中国中心の国際秩序の形成に、韓国は積極的な役割を果たそうとしている」との印象を
周辺国は深めました。この場での韓国政府のパフォーマンスといいますか、
動きを見てのことです。
 韓国の動きの背景には、韓国人の心を巧みに揺さぶる中国外交がありました。
さすが、外交巧者の国だと思います。以下、時系列に沿って「心理ゲーム」を読みます。
 11月7日、中国と日本は「関係改善について」と題する合意文書を発表しました。
2年半ぶりの日中首脳会談を、APECの場で開くためでした。
 それを見た韓国は大いに焦りました。歴史認識問題などで中国と対日共同戦線を
張っていたはずなのに、梯子を外されたと考えたのです。
 韓国は「日本の首相が反省しない限り首脳会談は行わない」と言い続けていた。
中国も日本との首脳会談は拒否していましたから、強力な後ろ盾と頼んでいた。
しかし突然、習近平主席が安倍晋三首相と会うことを決めた。さあ大変だ、というわけです。



「屋根を見上げる犬」の韓国
鈴置:韓国の「見捨てられ感」は大きかった。
毎日経済新聞のテレビチャンネル、MBNはニュースで
信じていた中国が……朴大統領の外交解法に注目
(韓国語、11月8日)という見出しを立てました。
 左派系紙のハンギョレも「四面楚歌に追い込まれた韓国外交」(日本語版、11月9日)
という見出しの社説で、日中首脳会談の開催決定に関し、以下のように書きました。
・我が国の立場から見れば、日本問題で必ずしも中国と異口同音に
協調してきたものではないものの、中国の対日批判の戦線離脱によって
「鶏追った犬が屋根を見上げる」(意気込んでした仕事が頓挫してしまうこと)
になってしまった。

「韓国は中国と協調しているわけではない」とハンギョレは書いていますが。

鈴置:言い訳です。
2014年春ごろから韓国人は一斉にそう言い始めました(「ルビコン河で溺れる韓国」参照)。
米国から「中国にすり寄っているじゃないか」と叱られたからです。
 そして、韓国が期待するほどには米国は「慰安婦」など歴史問題で日本に
圧力をかけてくれない。
韓国の思い通りに内側から日本政府を揺さぶってくれてきた朝日新聞も
「済州島での強制連行」を誤報と認めてしまった。
 こうなると、あとは中国に「日本叩き」をやってもらうしかない――と
中国依存を強めているのが今の韓国です。
 だから「中国とは共闘していない」とは米国向けの言い訳に過ぎません。
本音では、日中首脳会談の開催決定を「屋根を見上げる犬」
のように唖然として聞いたのです。

木村:韓流ドラマのヒロインに例えれば、こうなります。
 街で買い物をしていると、最近親しくなったボーイフレンドを見かけた。
声をかけようとしたら、その横には他の女性が歩いている。
しかもよりによって、それは自分と犬猿の仲の因縁の女性。
「あの人には絶対に裏切られないと思っていたのに、こんなことがあって良いはずがない」
――。ジングルベルが鳴り 響く街に、呆然と立ち尽くす主人公。
冷たい雪もちらつき始めた……。
 ちょっとオーバーかもしれませんが、韓国の政府や世論は一時、こんな心境に陥りました。

吹雪の中のマフラー

中国を信じていたがゆえの傷心ですね。
木村:でも、天は――いや習近平は、朴槿恵を見捨てませんでした。
韓流ドラマが「主人公が雪の中で立ち尽くすシーン」では絶対に終わらないように、
APECを舞台とするドラマにも、どんでん返しの第2幕があったのです。
 11月10日の中韓首脳会談で、中国は両国の自由貿易協定(FTA)に関し
「実質的な妥結」をしてくれました。
 これを発表することにより朴槿恵政権は、中国と極めて深く良好な関係にあると、
世界と国民に示すことができました。
ハンギョレには「四面楚歌などと妙な言いがかりを付けるな」と言い返せます。
鈴置:日本は中国とFTAを結んでいません。
だから韓国が先に結ぶとなれば
「中国が日本よりも韓国を大事にしている証拠」となるのです。
木村:以下は、第2幕です。
 次第に吹雪が激しくなる中、ヒロインの肩を叩く人がいる。
振り向くとボーイフレンドがニコニコと笑いながら立っていて、買ったばかりのマフラーを
さっと差し出す。そして一言「君のこと、忘れるわけがないじゃないか」……。
 なかなかのプレイボーイですよね、中国は。見捨てられた、と
ショックを受けた直後だっただけに「マフラー」の効き目は絶大でした。
重要なのは順番です。
 もし、マフラーを貰った後に「因縁の相手」と歩くボーイフレンド見たら、彼女は
せっかくのクリスマス・プレゼントを叩きつけて家に帰ったかもしれません。
鈴置:中国は11月7日に突然に態度を軟化し、韓国とのFTA妥結に動いたようです。
中央日報が「『韓中首脳会談前に妥結を』……農産物開放幅めぐり徹夜で調整
日本語版、11月10日)という記事でそう書いています。
 同日は「日中首脳会談」を両国が発表した日です。
この記事を読んで私は、傷心の韓国をなだめるには
「中韓首脳会談の場でFTA妥結を発表」というプレゼントを与えるしかない、と
中国指導部が判断し、交渉にあたる通商当局に軟化を指示したのかな、と想像しました。
 中国の通商当局は韓国の譲歩をもっと勝ち取れると踏んでいたでしょうけれど。
韓国は首脳会談のお土産として「妥結」を持ち帰りたかったからです。

木村:韓国世論に対してはFTAに加え、習近平主席の「顔芸」も有効でした。
11月10日の安倍晋三首相との会談で、習近平主席は目も合わさず、終始硬い表情のまま。
 これを見た韓国メディアは一斉に「安倍には苦虫顔だったが、
朴槿恵大統領には満面の笑みを浮かべていた。
やはり中国は日本よりも韓国を重視しているのだ」と書きました。

「日本は廊下の片隅」

習近平主席の「苦虫をかみつぶした顔」は、中国国内向けと思っていました。
木村:主目的はそうだったかもしれません。でも結果的ではあったにせよ、あの「顔芸」は
韓国に対しても絶大な効果を発揮したのです。
鈴置:「顔芸」に加え「中日首脳会談は廊下の片隅のようなところで開かれた。
本当の会談とは言えない」とも、韓国各紙は報じました。
 青瓦台(大統領府)か外交部が「廊下会談だった」とレクチャーしたと思われます。
もちろん「日中会談」を貶め「韓中会談」をうたいあげるためです。
 それに、ハンギョレなどが「首脳会談の開催など日中関係の改善で
ほごにされるかもしれない」と心配した「慰安婦共闘」も中国は忘れてはいませんでした。
 7月の中韓首脳会談で中国が約束してくれた通り、
両国の政府系機関の研究が始まります。12月17日に聯合ニュースが
韓中政府系機関 慰安婦問題共同研究へ=MOU締結」(日本語版)と報じています。
FTAに顔芸、そして慰安婦と盛りだくさん。相当に派手で豪華なマフラーですね。
木村:だからこそ朴槿恵(パク・クンヘ)大統領は中韓首脳会談の直後の11月11日に、
アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)を「積極的に支持」する発言を行うことになります。
 中国が押し始めたFTAAPに米国は必ずしも肯定的ではありませんから、
同盟国の韓国としてはかなり思い切った発言でした。
中韓FTAの発表でヒートアップした、中国への期待が作用したのは明らかです。
鈴置:米国は中国を排除する方向で、環太平洋経済連携協定(TPP)を推進中です。
それを牽制するために、中国はFTAAPをAPECの場に持ち出したのです。
つまり、朴槿恵大統領は「米国牽制の小道具」に使われるFTAAPに賛成したのです。
 一方、韓国はTPP交渉にまだ正式には参加していません。だから「積極支持発言」により、
韓国は米国主導のTPPよりも、中国が唱えるFTAAPを優先する意向を
表明したとも見なされました。
 木村先生ご指摘の通り、中国のくれたマフラー「中韓FTAの早期妥結」へのお返しが、
朴槿恵大統領の「積極支持発言」だった可能性が大きいと思います。

元カレのオバマには冷たくしても

APECには米国も参加しています。その目の前で韓国が「中国支持」を
表明してもいいのですか。
鈴置:米国はもう、元カレ扱いでしょう。
キャンパスまでの送り迎え――ボディーガードはまだ、米国にやってもらっている。
しかしそれぐらいは、いつでも中国が代わってやってくれます。
木村:ことに、このAPEC首脳会議は米中間選挙で民主党が負けた直後に
開かれたこともあって、オバマ大統領の影は薄かった。
半面、習近平主席はアジア太平洋からリーダーを集め、大いに存在感を誇示しました。
 こうした状況は朴槿恵大統領に、やはりこれからは中国との関係こそが重要なのだ、
との印象を強めさせたと思います。
 そして米国は「FTAAP積極支持」などの韓国の動きに、表立った反応は見せなかった。
韓国の目にはそれが「世界で指導力を失った米国が、対中接近を韓国に許容する印
」と映ったことでしょう。
鈴置:韓国の中国傾斜に拍車がかかりますね。
木村:韓国では米中の2大国が世界を仕切る、という「G2論」が主流です。
当然、その世界観が韓国の行動の根にあります。
 米国もG2の一方の雄である中国の存在を尊重し、
中国の「地域覇権」を承認する過程にある、と韓国人は見ているのです。

「米韓」こそ廊下会談だった
鈴置:「離米従中をやめろ」と米国から叱られることを、韓国はもう恐れなくなった
――という木村先生の分析には同感です。
 米国から不興を買うであろう朴槿恵大統領の「FTAAP支持発言」を
韓国メディアはさほど批判的に書きませんでした。
載せても小さな扱いでした。
 朴槿恵大統領は北京でオバマ大統領にも会ったのですが、この米韓首脳会談は
直前まで開催が流動的でした。
米国側が「日程調整が難しい」としたためです。
結局、開いたのですが米国が選んだ会談場所は、文字通り「廊下の片隅」でした。
 少し前までなら韓国紙は「米国から軽く扱われた。
こんなことでいいのか」と大騒ぎしたはずです。でも、そうはなりませんでした。
「いざとなれば、中国の懐に飛び込めばいいのだ」
という空気が韓国に広がっているのがよく分かります。
木村:そんな韓国の雰囲気を象徴するのが、在韓米軍基地への終末高高度防衛ミサイル(THAAD)の配備を巡る議論です。
最近、主要紙の1つに
「配備問題は米中ロに話し合って決めてもらおう」との記事が載りました。
さすがにこれには驚きました。

「もう、大国が決めて」
鈴置:私も驚きました。ついにここまできたか、と思いました。
中国専門家のキム・フンギュ亜洲大学教授が筆者です。
中央日報の日曜版「中央SUNDAY」(韓国語版、11月16日)への寄稿でした。
 日本語版には11月18日に
THAADの韓国配備は国際イシュー、米中露の妥結誘導が先」との見出しで載りました。
 今、韓国は米中双方から踏み絵を突きつけられています。最大のものがTHAADです。
米国は北朝鮮の弾道ミサイルから在韓米軍基地を守るために、
これを配備すると言い出しています。
 これに対し中国は
「北のミサイル用というのは誤魔化しだ。中国の弾道ミサイルを監視・撃墜するのが目的だ」
と主張、韓国に配備を拒否するよう要求しています
(「『核攻撃の対象』と中国に脅される朴槿恵」参照)。
 最近はロシアまでが中国と声をそろえて、韓国に配備拒否を求めるようになりました。
海洋勢力と大陸勢力の間で板挟みに陥った半島国家の韓国――。
 そこで「この問題で我が国を責めないでほしい。
米国、中国、ロシアの問題なのだから、あなたたち大国で話し合って決めてくれ」と、
韓国人は叫び始めたのです。この寄稿のポイントは以下です。

THAAD配備はすでに韓国の問題を越えて域内主要国の戦略的利害の中で

議論されなければならない事案となっている。
これを韓国が立ち上がって整理する必要はない。

強大国の間の折衝と妥協が必要であり、この過程で韓国の安保利益が反映される

妥協案が出てくるようにしなければならない。

「沖縄」を米中に決めてもらう?
木村:韓国ではすでに、安全保障分野でさえ
「米中等距離外交」的な論調が当たり前になっているのです。
ここに注目せねばなりません。
 そもそもTHAAD配備を巡る問題は米韓同盟、つまり米国と韓国の2国間の問題。
それを他の大国に入って決めてもらうというのは、すでに同盟の体をなしていない
 例えば、沖縄の海兵隊の基地問題について中国を入れて議論しよう、
と日本人が言い出すのと同じです

鈴置:私も韓国人に「周辺国が決めてくれればいいと言うのはまずくないですか」
と聞いてみたのです。多くの人が「自分で決めたら、米中どちらからか殴られる。
だから米中双方に決めてもらうのが一番いいのだ」と答えました。
 「独立国なら、他国から殴られるコストを甘受すべきではないのかなあ」
とも言ってみたのですが、韓国人はそう思わないようです。
 ブッシュ大統領が打ち出した東欧ミサイル防衛構想というものがありました。
ロシアが強く反対し、結局、オバマ大統領はあきらめました。
この前例を見て、韓国は「大国間で決めて」と言い出したのかもしれませんけど。

東欧で「悪しき前例」作ったオバマ
木村:イランの弾道ミサイルを防ぐために、チェコに早期警戒レーダーを、
ポーランドに迎撃基地計画を作るという計画でした。
 この計画を放棄したことで、オバマ大統領は「ミサイル防衛構想で押されれば引く」
前例を作ってしまったといえます。
 中国はこの「実績」を念頭に置いて反対しているのでしょう。
韓国もまた、それを手がかりに「米中ロ間での手打ち」を期待したくなるのかもしれません。
 ただ、それはあくまで「東欧」という極めて微妙な地域での話です。
チェコもポーランドもかつてはソ連圏で、北大西洋条約機構(NATO)では
冷戦後の新規加盟国です。
それに対し、韓国は米国の古い同盟国です。
米国との親密度も、依存度も全く異なるはずなのに……。
鈴置:それに、北朝鮮とイランの脅威は比べものになりません。
木村:その通りです。
米国がこの計画を取り下げた理由の1つは、イランのミサイルの脅威が
さほどではないとの判断でした。
一方、北朝鮮は韓国全土を射程に収めたミサイルを大量に保有しています。
 そもそもTHAADの韓国配備は、少なくとも公式的には、在韓米軍基地を守るのが目的です。
北朝鮮の明らかな脅威から在韓米軍を守る武器の配備についてさえ、
米国は中国やロシアと協議すべきだ――と韓国人は言い出したのです。

いつの間にか変容した米韓同盟
鈴置:米国にすれば、無茶苦茶な議論です。
米韓同盟が消滅するとしたら、THAAD配備問題が引き金になるのかもしれないと思います。
 「米中と距離外交」に関連、もう1つ興味深いことがあります。
それは、韓国が米韓同盟の仮想敵から中国を完全に外してしまっていることです。
 中国はTHAAD配備を拒否させるために
「配備したら在韓米軍基地は核攻撃の対象にする」と韓国を脅し始めました
(「『核攻撃の対象』と中国に脅される朴槿恵」参照)。
 韓国はその脅しを前提に「米国に認めるべきかどうか」悩んでいます。
つまり、韓国人は「THAADが配備されなければ、韓国は中国の核攻撃の対象ではない」
と思い込んでいるのです。
 ほんの10年前まで、韓国人は現実を見ていました。
「米中が戦争に突入すれば、米国の忠実な同盟国である韓国はどうあがいても
中国の核攻撃を受ける」と考えていました。
 でも今や韓国は「米韓同盟の仮想敵は北朝鮮だけで、中国は敵ではない。
だから、中国も韓国を敵と見なさない」と信じています。
米国には北朝鮮の脅威を防いでもらうけれど、中国封じ込めに加わるつもりは全くないのです
 中国を最大の仮想敵に据える米国としては、そんな虫のいい韓国を守ろうという気は
起きなくなってしまいます。ことにTHAAD配備に韓国が反対すれば。
 在韓米軍だけではなく、在日米軍やグアムの基地も中朝の弾道ミサイルから守る、
米国の安全保障にとって必須のものだからです。(次回に続く)

日本の無力化狙う韓国の「衛星外交」 「分水嶺の韓国」を木村幹教授と読む(4)
鈴置 高史  >>バックナンバー  
2014年12月26日(金) 2/7  3/7  4/7  5/7  6/7  7/7
「ルビコン河を泳ぐ」自覚
鈴置:韓国の「離米従中」は、もう韓国人も否定しなくなりました。
韓国の日常生活やネット空間では、それを前提に会話が交わされています。
政府はまだ「韓米離間を図るため、日本がそんなウソを言って回っているだけだ」と、
言い張っていますが。
木村:韓国が明らかに外交姿勢を変えたのは、2014年7月のソウルでの中韓首脳会談でした。
この時点から、韓国における米韓同盟に対する理解は一気に変容しました。
 この時、朴槿恵(パク・クンヘ)大統領は訪韓した習近平主席と一緒になって、
日本の集団的自衛権の行使容認を批判しました。
中国も念頭に日米共同作戦の強化を図る米国としては、最も言ってほしくないことの1つでした

当時、木村先生は「韓国は米国側の岸から中国を目指してルビコン河に飛び込んだ」
と表現されました(「ルビコン河で溺れる韓国」参照)。
木村:韓国が中国の岸に泳ぎ着いたとは言えません。まだ、河の真ん中を泳いでいます。
揺れながらも米韓同盟は厳然として存在するからです。
 ただ言えるのは、7月のソウルでの中韓首脳会談から11月の北京での
APEC首脳会談までの4カ月間に、韓国の対中傾斜がさらに激しくなったと思えることです。
対中傾斜の「指標」は、終末高高度防衛ミサイル(THAAD)を巡る韓国内の議論です。

公然の秘密から常識へ
鈴置:在韓米軍基地へのTHAAD配備計画の存在は、5月28日にWSJが書き、
6月3日に在韓米軍司令官も追認しました。
しかし韓国政府は「米国からは一切聞かされていない」ととぼけ続けました。
木村:7月3日の「中韓」で、習近平主席が朴槿恵大統領に配備への反対を表明しました。
しかし韓国政府はそれも明らかにしなかった。
 中国から圧力がかかっていると認めれば、韓国がTHAAD配備に応じないのも、
そのためだと告白せざるを得なくなります。
 ところが8月26日に聯合ニュースが北京発で、習主席の訪韓時の
「配備反対表明」を報じました。
韓国外交部のチャイナスクールのリークだったとも言われます。
 この記事が分岐点になった感があります。
韓国政府はこれを否定せず、内容を事実上、追認しました。
それを受け、中国はさらに状況を進めます。
 11月26日、韓国国会に招待された邱国洪・駐韓中国大使自身が
「配備は中韓関係に悪影響がある」と公式に反対しました。
 かくして中国はTHAAD配備、さらには米韓同盟に堂々と口出しできるという既成事実を
作り上げてしまいました。
 そして気がつくと、韓国の世論では「公然の秘密」だったTHAAD配備に関する対中配慮も、
いつの間にか「常識」へと変容してしまったのです。

「マフラー」を見落とした日本人

11月の中韓首脳会談で「離米従中」の度を韓国が強めた、
という印象は持ちませんでしたが……。
鈴置:日本人には誤解があります。
まず「日中首脳会談の決定で韓国が焦った」第1幕の部分を重く見てしまっている。
 半面、第2幕の“マフラーのプレゼント”――中韓FTAが持つ政治的な意味合いには、
さほど注目しなかった(「中国の掌の上で踊り出した韓国」参照)。
 それに加え、11月13日にミャンマーで朴槿恵大統領が
日中韓の首脳会談を呼びかけたものですから「韓国は孤立を恐れ、
苦し紛れの作戦に出てきたぞ」と見なしてしまったのです。
 11月14日の夕刊フジの1面トップの見出し
「朴大統領 会談したい 安倍に無条件降伏」が、その見方の象徴です。
木村:日中韓首脳会談の呼び掛けは、韓国が白旗を掲げたことを意味しません。
3カ国首脳会談の形であれば、朴槿恵大統領は習近平主席と共同戦線を組んで、
安倍首相を包囲できるのです。
 もちろんオバマ大統領とは異なって、習近平主席は
「日本と仲良くしろ」などと言うはずがない。
だからこそ朴槿恵大統領にとっては、習近平主席は一番頼りがいのある存在なのです。

中国の許可なしで安倍と会えない

ではなぜ、朴槿恵大統領は「日中」が開かれた直後に「日中韓」と言い出したのでしょう。
鈴置:「日中韓」は「日中」よりも先に開けなかったということでしょう。
韓国は中国の顔色を見て動きます。
 韓国が日中韓3カ国首脳会談の幹事国ですが、習近平主席が安倍首相と会う前に
「日中韓」を開こうとは言い出せなかったのです。
 そんな提案をすれば中国から「我が国は日本を苛めている最中だ。
それなのに『安倍と会え』とは、お前は日本の回し者か」と怒られるのは目に見えていました。
 「日韓」も同じことです。「日中」が開かれることが判明する前のことです。
韓国人に以下のように聞いてみました。
 「仮に安倍首相が慰安婦問題で韓国の要求をすべて受け入れたとして、
日韓首脳会談に応じることができますか。
習近平主席よりも先に、朴槿恵大統領が安倍首相に会っていいのですか」。
 するとほとんどの韓国の識者が「確かに今の段階で『日韓』は難しいでしょうね。
中国から許しは出ないでしょうから」と答えたのです。

中国が世界の中心だ

なるほど、中国の顔色を見ていたということですか。
でも韓国は「日中韓」を言い出す必要もなかったのではないですか。
黙っている手もありました。
鈴置:そこは米国を意識したのだと思います。
米国は「朴槿恵大統領は日本に対しあまりにかたくなだ」と怒り、歴史問題でも
韓国が期待するほどには味方してくれなくなってしまっていた。
 ここで韓国が、日中韓の3カ国首脳会談を提唱することで日本への融和姿勢を演出すれば、
見返りとして米国に慰安婦など歴史問題で、対日圧力を強めてもらえると計算したのでしょう。
 その「歴史認識」圧力だって韓国だけではなく、結局は中国の得点になるのですけれど。
日米離間を煽れますからね。
 要はもう、韓国は中国を基軸に外交を組み立てているのです。
それをきちんと認識しない限り、情勢を読み誤まります。
日本人は自分がそうだものですから「韓国も米国を軸に……」と誤解し続けているのです。
 2014年夏以降、しばしば政府関係者から「もし、日中首脳会談を開いたら
韓国はどう出るか」と聞かれました。「日中」の準備が始まっていたのでしょう。
 「韓国はますます中国に寄るだろう」と答えると、日本の当局者は一様に驚きました。
彼らは「韓国は焦って日本に寄ってくるはずだ」と信じていたのです。
 そこで私は「韓国は中国が世界の中心と考えている。
だから中国との距離で自分の国の位階を測る。
日中が接近したら、中国により近づくことで国際的な地位を高めようとするだろう」
と説明したのですが、なかなか分かってもらえませんでした。

影響力ある「衛星」に
木村:もう1つ、日本で見落とされていることがあります。
少なくとも主観的には、韓国政府は「中国を動かそうとしている」ことです。
 韓国は「中国が右を向くから自分も右を向く」
――つまり、中国から操られるだけの存在に留まるつもりはないのです。
韓国人の考える世界モデルを宇宙に例えると、以下のようになります。
 中国という巨大惑星の周りを日本と韓国という2つの衛星が回っている。
質量が大きい日本の方が、惑星の軌道に与える影響力は大きい。
でも、自分が日本よりも巨大惑星に近い軌道を回れば、影響力は日本を上回れる……。
 実際、韓国は中国との距離を縮めることで、韓国が期待する方向へと
中国の軌道を変えていこうとしています。
典型例が歴史認識問題です。
中国を引き留めるために「中韓の立場の近さ」を必死で強調します。
鈴置:実に面白い。自分は惑星にはなれない。
どう頑張っても小さな衛星だけど、惑星の軌道を変える力のある衛星になってみせる
――ということですね。
木村:ええ。
韓国の「衛星」戦術は一貫しています。
中国と南北の三角関係においても、北朝鮮以上に中国に接近することで
対北強硬路線に転じさせようとしています。
 日米韓の三国間の関係でも同様です。
米国に影響を及ぼすために、できるだけ米国という巨大惑星に近づく。
同時に、ライバルの衛星軌道を少しでも外に押し出そうと腐心します。
言うまでもなく、慰安婦を中心とする歴史問題がその手段です

謝罪すれば……悪くなる

ボーイフレンドにもっと寄りそうだけではなくて、カレとライバルの女の子を
引き離そうとするのですね。
鈴置日本は自分がそこまでしないから、韓国の行動が理解できない。
「韓国の言う通りに謝罪すれば、慰安婦問題は解決する」と信じている人が
いまだに多いのもそのためです
 謝罪をするほどに、韓国とその背後の中国は外交的武器を強化できたと自信を深め、
ますます国際社会で卑日を実行する
その結果、日韓、日中関係はさらに悪化することになるのですが……。
木村:歴史的に韓国はずうっと「衛星外交」で生き残りを図ってきたのです。
1960年代、ベトナムに率先して軍隊を送ったのは、自らを切って捨てるかもしれない米国に
恩を売って――衛星軌道の高度を下げて――支持を取り付けるためでした。
 日本と早く国交を正常化せよと迫る米国に対し
「日本には植民地支配への反省が足りない」とアピール、米国を自らの側に
引きつけようとしたのは李承晩(イ・スンマン)政権でした。
 日本という衛星を、自分よりも遠くの軌道に追いやろうとしたのです。
今の朴槿恵政権のやり方は、歴代政権の外交戦略を忠実に踏襲していると言えます。
鈴置:新羅は「倭よりも唐に近い存在になること」に全力を挙げました。
日本を辺境に追い払う「衛星外交」は韓国のベーシックな手法なのでしょう。
 それがいつも成功するかは別として。木星のような巨大惑星に近づき過ぎて、
のみ込まれなければ幸いですけれど。問題が深刻化しますからね。

彗星の速度で中国に接近

木村先生と鈴置さんは、この「日経ビジネスオンライン」の対談で繰り返し
「韓国の世界観が急速に変わっている」と強調してこられました。
鈴置:先生の近著『日韓歴史認識問題とは何か』の通奏低音も、まさにそれです。
「韓国の意識変化と、その背後にある国際政治の構造変化を見落とすから、
日本は日韓関係を見誤ってきた」と喝破しておられます。
木村:今の状況の読み違いには、もう一つ理由があります。
それは構造変化が本来、韓国に求める以上のスピードで、朴槿恵政権が
外交的ポジションを変えていることです。
衛星というより彗星に例えた方がいいような勢いで中国に急接近している。
 歴代政権が世界の構造変化に伴うトレンドを追っていたとするなら、朴槿恵政権は
トレンドの先を行こうとしています
(「韓国は『米中対立の隙間をうまく泳ぎ切れる』と考えている」参照)。
 例えば11月16日、豪州で開いた20カ国・地域(G20)首脳会議で、朴槿恵大統領は
「円安に動く日本」を世界秩序の破壊者であるがごとく批判しました。
鈴置:先生のご指摘通り、最近の韓国は国際社会で「トレンドを作ろう」とします。
歴史認識だけではありません。
円安も「悪い日本」イメージを拡散する手段の1つです。
大統領は内政も意識して語ったのでしょうけど。

空気を読まない円安攻撃
木村:内政を意識――G20で存在感を示せば人気が上がるとの計算もあったかもしれません。
ただ私は、心情的に「言わざるを得なかった」という部分が大きかったと思います。
実際、大統領は帰路の飛行機の中でも、その趣旨の発言をしています。
 「円安誘導という悪い行いをする日本という国がある。我が国に害をなしている。
悪は正さねばならない」――との思いです。
鈴置:朱子学の「衛正斥邪」ですね。
国力が付いたのだから、韓国の世界観や価値観を、地球上に広めなければならない、
との発想が普通の人にも色濃くなっています。
 ただ「円安批判」は韓国のエコノミストの間でも評判がよろしくなかった。
被害者になりすまし同情を買うつもりだったのでしょうが、同調してくれる国はありませんでした。
 米国の金融緩和が終了することが判明した直後に、お札をさらに刷ると宣言した
日本は世界にとってありがたい存在です。
ことに資本逃避が起きそうな途上国にとっては。
 それもあって市場は「韓国こそが異様なウォン安誘導策を実施してきたのに、
よく言うよ」と朴槿恵発言を冷ややかに見ました。
 さらに「ああそうか。これ以上ウォン安に持っていけば資本逃避が起きると韓国は
恐れているのだな。だから大統領が空気を読まずに、筋悪の円安批判に乗り出したのに
違いない」と疑いました。自ら墓穴を掘る発言でした。
木村:確かにG20の場で対日批判は、ほぼ完全に無視されました。
でも、この政権にとって、結果は関係ないのかもしれません。
 対日批判は「正しい主張」なのだから、悪いのはこれを受け入れなかった
韓国以外の19カ国だ――と考えるのがこの大統領ですし、今の政権です。
 韓国の政治分析者は「朴槿恵大統領はポピュリストであり、原理原則主義者である」
とよく言います。でも私は、前者はあくまで結果論で、本質は原理原則主義にあると思います。
 例えば外交においても、原理原則にこだわるこの政権は
「悪い日本」は絶対に許すことができない。
米国よりも中国の方が協力的であり力を持っている のなら、悪を正すために
中国に頼むのは当たり前――だと考えます。
朴槿恵政権の信じる「正義」を支持する国家こそが「正しい国家」だからです。
 韓国像を描くにしろ、その行動を予測するにしろ、こういった文化的な要素や、
政治的指導者のイデオロギー的な志向を読み取らないと、間違ってしまうのです。

最後の質問です。「朴槿恵の韓国」がますます中国傾斜を強めていることはよく分かりました。
では、ノーリターンポイントを越える――米国側に戻ってこられなくなるとしたら、
どんな出来事が引き金になるのでしょうか。

引き金は通貨危機と核実験
鈴置:通貨危機と思います。米国の金融緩和中止によって韓国から大量の資本が
一気に引きあげられたら、1997年や2008年のような危機に見舞われる可能性があります。
 日本との通貨スワップは2015年2月に終了する見込みで、残るは中国とのスワップだけです。
外貨繰りがおかしくなった時、まず韓国は中国に助けを求めることになりますが、
さて、中国が素直に応じるか――。
 アジア各国を囲い込むために中国が計画中のアジアインフラ投資銀行(AIIB)への参加を、
スワップ発動の条件にするのではないかと見る人が多いのです。
木村:当然、中国はAIIBを交換条件にすると思います。
鈴置:韓国は米国からの圧力でAIIBへの参加を見合わせてきました。
しかし、デフォルト(債務不履行)を起こすよりは米国から怒られる方がまだましです。
 ただ、米国の怒りは韓国の予想より大きいかもしれません。
AIIBは決済通貨を中国元にするとも見られています。
 そうなったらAIIBは、日米が主導するアジア開発銀行(ADB)のライバルになるだけに
留まりません。韓国は、ドル追い落としを狙う「中国の陰謀」に全面的に加わることになります。
木村:私は、北朝鮮の核実験が「引き金」となる可能性があると見ています。
この地域の軍事バランスが大きく崩れ、韓国の立ち位置を揺らすからです。
 次の実験により、北朝鮮は核兵器の小型化――実用化を一歩進めると思われます。
なお多くの人は、実験は数年内に実施されると予想しています。

核を持てば「惑星」に昇格

韓国はその脅威に対抗するため中国にもっと接近する、ということですか。
木村:シナリオの1つがそれです。ただし、北の核に備えるには最終的には「核の傘」を持つか、
それに代わる対策が要ります。
例えば、中国が何らかの手段で北朝鮮に核を放棄させる、といった解決策です。
 中国がその期待に応えられなければ韓国は、再びルビコン河を逆に泳ぎ
米国側に戻ろうとするかもしれません。
北朝鮮の無害化のために中国にぎりぎりまで近寄って、うまくいかなければ
「惑星」を代えるわけです。
 新たな惑星にロシアを選ぶ可能性もないとはいえません。
現在、北朝鮮とロシアは急速に接近しています。
ロシアが北朝鮮に影響力を持つようになれば、韓国は今度はロシアに近づき、
北朝鮮という衛星を自分よりも外の軌道に追い出そうとすると思います。
 それでも北朝鮮の核問題が解決できなければ、韓国では核武装論が高まるでしょう。
鈴置:惑星への昇格を狙うわけですね。
木村:韓国が中国に接近していると聞いただけで驚く人が多い。
でも、これは「変化の始まり」に過ぎないのではないでしょうか。

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