慰安婦問題について、いろんな報道: 「米大使襲撃」で進退極まった韓国 「二股外交の破綻」を韓国の識者に聞く。「慰安婦」を無視されたら打つ手がない 韓国の新思考外交を読む 鈴置 高史

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2015年3月10日火曜日

「米大使襲撃」で進退極まった韓国 「二股外交の破綻」を韓国の識者に聞く。「慰安婦」を無視されたら打つ手がない 韓国の新思考外交を読む 鈴置 高史

「早読み 深読み 朝鮮半島」
「米大使襲撃」で進退極まった韓国 
「二股外交の破綻」を韓国の識者に聞く
鈴置 高史  >>バックナンバー
2015年3月10日(火) 2/6 
韓国の進退は極まった――。
「米大使襲撃事件」を韓国の識者、Aさんに聞いた(注)
(注)Aさんは韓国を冷静に語る人で「安倍首相の韓国語は失敗でした」などに登場している。
零下の街頭で踊る
A:韓国は窮地に陥りました。3月5日にリッパート(Mark W. Lippert)駐韓米大使への

襲撃事件が起きたからです。「米国から見捨てられるかもしれない」と韓国人は
首をすくめています。
 事件2日後の7日に市内の米国大使館の前を通ったら「大使を愛しています」

などと書いたプラカードを掲げた人々が立っていました。
 負傷した大使の治癒を祈るつもりで、カネや太鼓で踊っている人々もいました。

ろくに風をさえぎるものもない、下手すれば摂氏零度以下の場所で、です。
 この事件で韓国は米国に大きな借りができました。

THAAD(サード=終末高高度防衛ミサイル)の在韓米軍基地への配備も、
もう拒否できなくなるかもしれません。
 中国が進めるアジアインフラ投資銀行(AIIB)への参加も見合わせようとの空気が

濃くなるかと思います。


そもそも「AIIBには参加するな」と米国に強く止められていましたから
(「米中星取表」参照)。
米中星取表~「米中対立案件」で韓国はどちらの要求をのんだか
(○は要求をのませた国、―はまだ勝負がつかない案件、△は現時点での優勢を示す。

2015年3月9日現在)
案件 米国 中国 状況
日本の集団的自衛権
の行使容認
2014年7月の会談で朴大統領は習近平主席と「各国が憂慮」で意見が一致
米国主導の
MDへの参加
中国の威嚇に屈し参加せず。代わりに「韓国型MD」を採用へ
在韓米軍への
THAAD配備
韓国国防相は一度は賛成したが、中国の反対で後退
日韓軍事情報保護協定 中国の圧力で署名直前に拒否。米も入り「北朝鮮の核・ミサイル」に限定したうえ覚書に格下げ
米韓合同軍事演習
の中断
中国が公式の場で中断を要求したが、予定通り実施
CICAへの
正式参加(注1)
正式会員として上海会議に参加。朴大統領は習主席に「成功をお祝い」
CICAでの
反米宣言支持
2014年の上海会議では賛同せず。米国の圧力の結果か
AIIBへの
加盟 (注2)
米国の反対で2014年7月の中韓首脳会談では表明見送り、継続協議に
FTAAP (注3) 2014年のAPECで朴大統領「積極的に支持」
(注1)中国はCICA(アジア信頼醸成措置会議)を、米国をアジアから締め出す組織として活用。
(注2)中国はAIIB(アジアインフラ投資銀行)を、米国と日本が力を持つADB(アジア開発銀行)
への対抗馬として育てる計画。
(注3)米国が主導するTPP(環太平洋経済連携協定)を牽制するため、中国が掲げる。
 いずれにせよ、この事件は尾を引くと思います。単なる大使傷害事件ではないのです。
米国が韓国に対し「中国側に行くつもりか」と警戒する最中に起きた事件だったからです。
 ことに2月27日、米国のシャーマン(Wendy R. Sherman)国務次官がワシントンで
Remarks on Northeast Asia 」と題して演説し
「中国とスクラムを組んで日本を叩く韓国」を牽制した直後でした。
 そして米国務次官に対し、韓国紙が一斉に「日本の味方をするのか」
「発言を取り消せ」と反撃する最中でもありました。

「いわゆる慰安婦」にも激怒
鈴置:犯人は「オバマはなぜ変わったのか」と言いながら米大使を襲ったと報じられています。
 一方、ワシントンでのシャーマン国務次官の演説に対し、韓国各紙は
「慰安婦などに対する米国の姿勢が変わった」と非難していました。
 例えば、朝鮮日報の3月3日社説「米国務次官の誤った過去史発言、これは見過ごせない
(韓国語版)が典型です。
日本語版の見出しは「看過できない米国務次官の『韓中日共同責任論』 」です。
シャーマン国務次官は「民族感情は悪用されかねず、政治指導者が過去の敵を非難し、
安っぽい拍手を受けることは容易なことだ。
しかし、そんな挑発は発展ではなくマヒをもたらす」と述べた。
この部分は暗に韓国を指したと思われる。

しかし日本に対しては、一言も謝罪と反省を求めなかった。
シャーマン国務次官は今回、外交的には使ってはならない不適切極まりない表現を

遠慮なく使った。オバマ(Barack Obama)大統領が2014年4月に訪韓した際には、
慰安婦問題に関し「実にひどい人権侵害だ」と述べている。
何が米政府の公式の立場なのかはっきりさ せる必要がある。
 なお、講演の中でシャーマン国務次官は「いわゆる慰安婦」
(so-called comfort women)という、日本批判を避けるような呼称を使いました。
「性奴隷」(sex slave)という単語を使ってほしい韓国人の癇に相当に障ったようで、
この言葉使いにもメディアは怒りをぶつけました。

犯人は左派の民族主義者
 さて、犯人が「オバマが変わった」と批判したところを見ると、やはりシャーマン演説に
触発されて米大使を襲撃した、ということでしょうか。
 事件直後の5日午後の国会・外交統一委員会で、ある議員も
「シャーマン発言に対し我が国がちゃんと(強く)対応しなかったことが襲撃事件の
素地となった」と政府を批判しています。
A:犯人の断片的な言動だけでは、事件と米国務次官の発言との関連は判断できません。
ただ襲撃犯は「我が庭 独島の守り」なる民族主義的な組織の代表です。
鈴置:この人は北朝鮮との関係改善を求める左派でもありますよね。
左派でかつ、民族派の反日・反米運動家――という日本人には理解しにくい人です。
A:いずれにせよ、反米活動家です。鈴置さんの表現を借りれば
「韓国が離米従中し始めた」と米国が神経を尖らせる中、この反米運動家が
米大使を刃渡り25センチのナイフで襲ったのです。
 大使はほほや腕に傷を負い、80針も縫いました。
あと2センチずれていれば頸動脈を切っていたといいます。
 米国が「韓国の真意」を疑うのは当然です。
そして疑われた韓国人は
「裏切り者と見なされ、米国に見捨てられないか」と恐れ始めたのです。

テロリストに執行猶予
鈴置:シャーマン国務次官にすれば「だから私が言ったでしょ」と、
韓国に文句のひとつでもつけたいでしょうね。
 韓国政府が「安っぽい拍手を得ようと、安易に民族主義を煽っていたら」
――日本大使への暴力事件を起こした民族主義者を野放しにしていたら、
同じ男に今度は米国大使が襲われてしまった――のです。
国務次官の警告がすぐさま現実になったわけです。
 米大使襲撃犯の金基宗(キム・キジョン)代表は2010年7月に日本大使を襲った人物です。
ソウルで講演中の重家俊範・駐韓大使(当時)にコンクリート片を投げつけ、
横にいた日本大使館員が負傷しました。
 裁判では懲役2年の判決でしたが、3年の執行猶予が付きました。
今となっては「テロリストに執行猶予など付けるから、
いい気になって米大使を襲撃したのだ」と韓国人は言い始めました。
 しかし日本大使襲撃直後の韓国メディアは犯人を英雄扱いし、インタビューまでしました
現場にいた記者によると、警察も現場にすぐには駆けつけなかったそうです
事件化すべきかどうか、上の判断を仰いでいたと思われます。
 犯人は2014年になっても国会議員の紹介で、国会図書館の講堂を借りて
集会を開いていた――と韓国紙は報じています。

黒幕を探せ
A:今回の事件で、左派系紙は政府の警備ミスを追及しています。
左派の活動家が犯人だったので、自分たちへの風当たりを少しでも減らす目的です。
鈴置:一方、保守系紙は犯人と北朝鮮とのつながりを疑う紙面を作っていますね。
この機会に左派を攻撃しようということなのでしょうけれど、責任転嫁の臭いもします。
 韓国保守派の謝罪デモの光景をネットで見ました。
北朝鮮の国旗を燃やし、金日成(キム・イルソン)、金正日(キム・ジョンイル)、
金正恩(キム・ジョンウン)の3代指導者の写真にバツを付けて掲げる――。
もう、北朝鮮が主犯の扱いです。
 朴槿恵(パク・クンヘ)大統領も「黒幕を探せ」と指示しています。
政権としては何とかして「北朝鮮の仕業」にしたいところでしょう。
 事件の背景に「安っぽい民族感情の悪用」があると米国に見なされたら、
韓国政府がもろに責任をかぶることになってしまうのです。
A:今、韓国紙は必死で「韓米関係に悪影響なし」と書いています。
もちろん多くの人が悪影響を懸念しているからです。
 日本でもライシャワー(Edwin O. Reischauer)米国大使が襲撃されました。
確か、昭和39年(1964年)でした。日本の新聞は日米関係を懸念しましたか?

51年前のライシャワー事件
鈴置:私も今回の事件をライシャワー刺傷事件と比べようと、当時の日本の新聞を
いくつか読みました。もちろん、各紙とも米国の反応を大きく報じるなど、
悪影響に気を使った紙面づくりでした。
 ただ、それは翌日付の紙面ぐらい。現在の韓国メディアが事件後連日、
米韓関係に焦点を当てるのとは明らかに異なります。
 ライシャワー事件の頃、日米関係は良好だったし、犯人はその時の新聞の表現によれば
「異常性格」(1964年3月24日の日経夕刊1面)だったからです。
 それでも日本政府は直ちに池田首相が親書を送るなど遺憾の意を示したうえ、
国家公安委員長を辞任させました。
 ジョンソン(Lyndon Johnson)大統領も
「両国間の深い友好と理解には全く関係ない」との返書を、時差があるとはいえ
何と事件当日の24日に送っています。
 今回の韓国の事件は「政治テロ」と韓国メディアが表現する性質のものです。
偶発的な要素が濃く、尾を引かなかった「ライシャワー事件」とは
単純に比べられないと思います。

すぐに謝る日本人
 ちなみに事件翌日の1964年3月25日の社説の見出しは以下です。
日経「遺憾なライシャワー大使の遭難」
読売「遺憾な米大使傷害事件」
朝日「ラ大使と米国民にわびる」
A:「わびる」ですか。
本当に謝るのが好きですね、日本人は。何かあると、とにかく謝ってしまう。
鈴置:逆の意味で、韓国紙の社説には驚きました。事件の翌日、
3月6日付の各紙の社説の見出しは以下でした。
中央日報「米大使へのテロは大韓民国へのテロだ」
「今回のテロによる米韓同盟への逆風を防げ」
朝鮮日報「駐韓米大使テロにあたり、韓米同盟の決意を見せねば」
東亜日報「襲われても『ともに歩もう』という米大使、韓米同盟の底力を見せた」

 「わびの言葉」が見出しに一切ないのです。
A:簡単にはわびないのが韓国人です。というか、日本人が簡単に謝り過ぎるのです。

韓国こそ被害者だ!
鈴置:もう1つ驚いたのが、中央日報の「大韓民国へのテロだ」です。
朴槿恵大統領も「韓米同盟へのテロ」と語りましたが、韓国はいつの間にか
被害者になっています。
A:それが韓国人です。
鈴置:実利的にも、被害者になりすましておかないと
「危険な民族主義を放置した加害国」になってしまうからでしょうね。
 ここで質問です。お話の冒頭で「この事件により、韓国は米軍のTHAAD配備を
受け入れることになるかもしれない」と仰いました。
米国は大人ですから、要求に事件を露骨には絡めないと思うのですが……。
A:米国が言及しなくとも、委縮した韓国側が先に言い出すかもしれません。
それほどに韓国人は米国の怒りを恐れているのです。
 新聞も「米国は怒っていない」との報道をしつこいほど繰り返しています。
「本当は怒っているのではないか」と韓国人が悩んでいるからです。
鈴置:ライシャワー事件とは異なって「怒っていないから安心しろ」
との米大統領の親書が届いていませんしね。
 ご指摘のように、普通の人や外交当局は「ここでは米国に恭順の意を見せておこう」
と考えるかもしれません。でも、朴槿恵大統領がそう考えるでしょうか。

米国には甘えても大丈夫
A:確かに韓国はもう、米国側に戻れないかもしれません。
中国側に行き過ぎていて、そんなことをすれば、中国からどんなイジメに遭うか
分からないからです。
 韓国は引き返すことも前に進むこともできない――進退極まったのです
「米中二股」などという小賢しい外交を展開し、韓国は自分の首を絞めたのです。
鈴置:米国はすでに――2013年秋から「二股の韓国」あるいは「離米従中の韓国」に
本気で怒り出していました。
なぜ韓国人はそれに神経を配らなかったのでしょうか
(「天動説で四面楚歌に陥った韓国」参照)。
A:「米中二股派」や「親中派」は米国の意向など気にしない。
一方、いまだ残る「親米派」は「少々甘えても米国は怒らない」と信じ込んでいる。
結局、だれも真剣に米国の変化を見つめていなかったのです。
 真田幸光教授との対談「『人民元で生きる決意』を固めた韓国」を非常に面白く読みました。
ことに米国が日本に「韓国とスワップを結ぶな」と指示するくだりです。
 韓国人は米国の恐ろしさを分かっていない。通貨危機の1997年当時も、
米国の韓国に対する姿勢の変化を見落とし、国際通貨基金(IMF)による
救済という大恥をかいたのです。
 すぐに拳骨を振り回す中国の顔色は不必要なほどに見るというのに。 
日本の外務省のホームページに関してもそうです。

ブレーキ役が消えた韓国
鈴置:3月以降、ホームページの韓国の項目から
「自由と民主主義、市場経済という基本的な価値を共有する国」
という表現が消えた“事件”ですね。
A:ええ、それに韓国人は驚いたのです。日
本人が韓国をどう見ているかに全く無頓着だったからです。
鈴置:1990年代までは、金鍾泌(キム・ジョンピル)という知日派の大物政治家が
現役で活躍していました。
 韓国の日本批判が一定の限度を超えると
「さすがに日本人も怒り出すぞ。これぐらいでやめておけ」などと、
ブレーキをかけたものです。
が、今は知日派もいなければ、日本に神経を使おうという空気もない。
A:その通りです。こんなことをしているうちに日本からは見限られ、
米国からは見捨てられるでしょう。
体力が衰えた米国がいつまで大陸に橋頭堡を確保しようと思うか、分かりません。
 と言うのにTHAADやAIIBでは中国の顔色を見てばかり。
米国が国務次官のスピーチを通じて韓国に警告を発すれば、メディアは逆切れする。
挙句の果ては駐韓米大使への襲撃です。
 鈴置さんの『「三面楚歌」にようやく気づいた韓国』を読みました。
エピローグに「韓国の将来の3つのシナリオ」があります。
 朝鮮半島をよく研究した、面白い予想です。でも、どれも当たらないと思います。
なぜなら、韓国は中国側の国となってしまう可能性が高いからです。

死に体の韓国は中国傘下に
鈴置:「シナリオ2」はまさに「中国化」コースを予想しているのですが……。
A:そのシナリオは、形式的には法的な中立化が保障される――との前提付きです。
私はこのままでは実質だけではなく、名分でも中国の傘下に入るのではないか、
と悲観しているのです。
 これから韓国が正念場を迎えるというのに、大統領は任期を3年も残して
レームダック(死に体)。
「一時は20%台に落ちた支持率が、30%台に戻った」などと、
前向きにとらえる向きもあります。
 しかし肝心なのは不支持率です。過
半数の国民からそっぽを向かれたら、大統領は何もできない。
鈴置:2015年が明けて以降、保守系紙でさえ大統領が何かやれば批判し、
何もしないと言ってまた批判するようになりました。
A:そして不支持率はその頃からずっと50%を超え、時に60%台に乗るのです。
韓国は今、米大使襲撃事件で大騒ぎ。でもうわべの騒ぎだけではなく、
この国の奥深くでものごとがどう動くか、じっくりと見るべきでしょう。 

「慰安婦」を無視されたら打つ手がない韓国の新思考外交を読む
鈴置 高史  >>バックナンバー
2015年2月5日(木)
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 韓国で「対日強硬策を見直すべきだ」との意見が出てきた。
いくら「慰安婦」と叫んでも、日本から無視されたら打つ手がないことに気づいたからだ。
歴史カードを手放そう

韓国で「対日新思考外交」の主張が始まった、とのことでしたが
鈴置:保守論壇の大御所で、朝鮮日報顧問の金大中(キム・デジュン)氏が
のどが乾いた方が井戸を掘れ」(2014年12月9日、韓国語)を書きました。
 これが「新思考外交」――日本との外交に歴史を持ち込むのはやめよう
――を訴える代表的な記事です。以下が記事の最後の文章の全訳です。
今さらの話だが、日本との過去を言挙げし、歴史を話すことが
どれほど愚かで無意味かを悟った。
韓国の外交的な武器である「歴史カード」を手放そう、ということですね。
なぜ突然、そんな意見が出てきたのでしょうか。
鈴置:金大中顧問は記事の冒頭で
「日本は韓国との関係を改善する考えもなく、必要性も感じていない。
これは(2014年)11月の最後の週に日本の政治家や知識人に取材して得た結論だ」
と書いています。
 訪日前は「何か要求すれば、日本は渋々でも応えるはずだ」と考えていたのでしょう。
「日本は悪化した韓国との関係を改善したがっている」との前提からです。
 しかし、日本への取材旅行で、それが思い込みだったと金大中顧問は告白したのです。
記事の中には「関係改善を話し合おうにも、取り付く島もなかった日本人」の実例が、
いくつも報告されています。
韓国が態度を変えろ 
見出しの「のどが乾いた方が井戸を掘れ」とは、まさにそんな日本の姿勢を
―――「日韓関係を改善したければ、それを望む韓国が態度を変えろ」との姿勢を
言い表しています。
 そして日本が関係改善を望んでいない以上、いくら強力な「歴史カード」を振り回しても
無視されるだけだ――という結論に達したのです。
 それまでなら日本の「良心派」が、韓国が望む方向に内側から日本を
誘導してくれたものでしたが、それにももう、期待できません。
 2014年8月には朝日新聞が「済州島での慰安婦の強制連行」を報じた一連の記事を
取り消しました。韓国における「強制連行」の具体的な証拠が消滅してしまったのです
(「『アサヒ』が駄目なら『クワタ』がある」参照)。
 金大中顧問が訪日した11月末の段階で、謝罪に応じない安倍晋三政権の続投が
確実視されていました。「植民地支配」に関しても謝り、「慰安婦」でも謝罪しかけていた
“リベラル”な民主党が政権を取り戻すメドも立たなくなっていたのです。

「反安倍」で日本人は立ち上がった

金大中顧問は日本専門家でもなさそうですし、日本に住んでいるわけでもない。
でも、韓国メディアは東京に記者を置いています。
日本の空気が大きく変わっていることを報じていなかったのですか。
鈴置:報じていなかったのです。韓国紙は
「極右の安倍のために日本はおかしくなっている。しかし、良心ある日本人は一斉に
立ち上がって安倍に反対している」
「普通の日本人は韓国に好意を持ち、関係悪化を憂慮している」と書いてきたのです。
 これに関しては趙甲済(チョ・カプチェ)氏が興味深い記事を書いています。
安倍が勝ち、韓国言論人が負ける日!」(2014年12月13日=注1=、韓国語)です。
趙甲済ドットコムに載った記事の骨子は以下です。

(注1)13日付だが、記事内容には15日の事実も含まれている。
初報を13日に掲載し、その後に加筆・修正したと思われる。
独自の世界に住む韓国人
安倍首相に対する韓国メディアの報道が事実なら
(2014年12月14日投開票の総選挙では)安倍が率いる与党、自民党が惨敗するはずだ。
だが12月15日明け方の段階で、与党の自民党と公明党の獲得議席数は全議席の

3分の2を超え、圧勝している。
韓国メディアは安倍首相に対し、金正恩に対する以上に批判的に描いてきた。

「日本の良心勢力が安倍に反対している。米国と世界のメディアがこれに加勢し、
安倍は国内外で四面楚歌に陥っている……」と伝え、多くの韓国民もそれを信じている。
安倍首相の大勝で、相当数の韓国人が感情的で反日に偏った報道により、

世界がどう動いているかを知らずに生きてきたという事実に目覚めるだろう。
 韓国メディアは事実よりも「そうであってほしいこと」を書くのが仕事なのです。
趙甲済氏はそれに非常な危惧を抱き、厳しく批判してきました。
 日本にも事実を大事にしないメディアがあります。
が、韓国の場合、ほとんどのメディアが一斉に「そうであってほしいこと」だけを報じるので、
一種独特な、独自の世界観に支配されているのです。

なるほど、独自の世界観ですか。話を金大中顧問の記事に戻します。
歴史カードを捨てた後、対日外交をどう組み立てよう、というのでしょうか。
鈴置:記事の「要約」を見るとそれが分かります。関連する部分は以下です。
日本と過去を論議するよりも、普通の第3国として再定義を
我が国は付き合いを多角化すべきだ


困った時の日本頼み

「日本以外の国と付き合おう」とは、日本にとって実にありがたい意見です。
鈴置:ええ、「うるさい韓国が日本に纏いつくのをやめてくれるのか……」
と喜ぶ人が多いでしょう。

それにしても「普通の第3国として再定義」とは、大げさな言い方ですね。
鈴置:韓国にとって日本は特殊な国でした。「普通の外国」ではなかったのです。
1965年の国交正常化から1990年代初め頃までは、経済的に困ると日本に助けてもらうのが
常道でした。韓国にすれば「困った時の日本頼み」という感じだったのです。
 当時は日本側にも「韓国は旧植民地」という意識が残っていて、「しょうがないなあ」と
思いながらも韓国の頼みを聞いていたのです。
冷戦期でしたから、韓国が北朝鮮に圧倒され「釜山に赤旗が立っても困る」
との思いもありました。
 1990年代初めに冷戦体制も崩壊したし、韓国も豊かになったのでこうした関係は
なくなるのかな、と一時は思われました。
 しかし「日本頼み」は別の形で続きました。
歴代政権は国民からの支持が必要になると「歴史」を言挙げし、日本に繰り返し謝罪を
求めるようになったのです。
 1987年に民主化し政権の任期がきちんと定まると、韓国で初めて「レームダック」現象が
発生するようになりました。すると、国民の不満をそらすために
「謝罪を要求できる日本」が必要になったのです。

中国側に行く国
 結局、韓国にとって日本はずうっと「普通の国」ではなかったのです。
一方、普通の日本人はこれを見落としがちでした。
韓国が民主化し、経済成長も実現したので日本人は「普通の国」と見なしていた。
だからてっきり、韓国も日本をそう見ている、と思い込んでいたのです。

韓国が日本に纏わりつく理由にも変遷があるのですね。
それを理解しても、纏わりつかれる側としては韓国が嫌になるのには変わりませんが。
鈴置:「韓国は一人前の国になったのだから、国内問題を反日で乗り切る
姑息な手口はやめるべきだ」と日本人――ことに専門家は考えるようになっています。
 それに「韓国は中国側の国になりつつある」と日本人は警戒を強めているところです。
そんな国に何らかの譲歩をしてまで関係を改善しようと思わないのが普通です。
 結局、金大中顧問も日本の指導層とじっくり取材して、日本人のこうした韓国観の変化に
ようやく気がついたということでしょう。

韓国は日本の従属変数

金大中顧問以外にも「気づいた人」はいるのでしょうか。
鈴置:東亜日報のシム・キュソン大記者が「新思考外交」を訴えました。
韓日修交50年 郷愁と別れる時だ」(2015年1月5日、韓国語)です。
まずは、韓国で「新思考外交」が生まれ始めたとの指摘の部分を要約します。

最近、韓国で微妙な変化が見られる。冷却した韓日関係の打開策として専門家たちは、

韓国が作戦を変更しなければいけないと言い出した。
現在のような原論的な態度では問題を解決することができず、国益を毀損する憂慮が

あるというのだ。彼らの主張は、日本の変化や譲歩を前提としない。
これは注目すべき変化だ。
 確かに年初から、強硬一辺倒の対日外交を修正しようとの記事が
韓国各紙に目立ちました。
ただ、金大中顧問の記事を含め、多くが「『慰安婦』を日本に無視された。
もう、打つ手がない」「日中関係が改善したら韓国が孤立する」
といった戦術的な理由からです。
 シム・キュソン大記者の指摘が興味深いのは、反日の本質を突いている点です。
以下をお読み下さい。

韓日両国がもう少し穏やかに過ごそうと思うなら、それぞれの「郷愁」を捨てるべきであろう。

日本は銃刀を振りかざした「日本の過去」に対する郷愁を捨てるべきだ。
日本は自身の栄光を、もっとも正常的な今現在に求めるべきだ。
韓国は、謝れと言えば謝った「過去の日本」に対する郷愁を捨てるべきだ。

50年前の日本を前提とした関係回復は難しいという事実を韓国人は認めなければならない。
韓国はそんな弱い国ではもうない。日本の従属変数たることを自ら認める必要はないのだ。

品位を自ら落とす韓国

「日本の従属変数」とは?
鈴置:そうです、そこです、注目 すべきは。
最後のくだりを、本意を忖度して意訳すれば「韓国は弱い国だった。
だから何かあると日本に謝ってもらって満足していた。
我々はそんな日本頼みをいつまで続けるのか。
それは精神的に日本の属国であり続けることではないのか」ということでしょう。
 旧宗主国に謝罪させることでようやく自分の存在を確かめる
――韓国という国のあり方に対する痛烈な警告です。

こうした警告は珍しいのですね。
鈴置:大手紙では極めて異例です。
「まだ、属国意識が残っている」とは韓国人にとって楽しい指摘ではありませんから、
商業メディアとしては載せにくいでしょう。
 ただ、若い世代になるほどに「属国意識」も薄まる、あるいは消えていますから、
こうした警告への反発は薄いかもしれません。
 なお「ヴァンダービルド」のペンネームで趙甲済ドットコムに健筆をふるう識者は、
2013年10月に登場以来、繰り返し
「謝罪を求めるほどに国の格が落ちる」と指摘してきました。
 このサイトは趙甲済氏が非営利で運営しているので読者の反発を気にせず、
率直な意見を載せます。
「書き込み」は自由ですから、ヴァンダービルド氏は“愛国者”からの激しい罵倒に
常にさらされていますが。
 ヴァンダービルド氏は最近も
尊敬される韓国人になろうとするなら、手なれたやり方に決別すべきだ」(1月31日)を
書いています。以下が前文です。
謝罪を1回受けようとして、自らもっと大きなもの(品位など)を捨てる愚を犯す事例は、

やはりここ(訳注・韓国)以外にない。
 韓国にも誇り高い人はいるのです。

堂々と語りにくいので、彼らの意見はまず、大勢にはならないのですが。

早くもレームダック

戦術的であろうと、国の格を上げるためであろうと、日本と普通の国の関係を
作ろうとの意見が、韓国に広まるのでしょうか。
鈴置:まず、今の朴槿恵(パク・クンヘ)政権は絶対に受け入れないと思います
対日強硬策の失敗を認めたことになるからです。
任期が3年目にさしかかって「レームダック」が早くも指摘されています。
 尹炳世(ユン・ビョンセ)外相が毎日経済新聞のインタビュー記事
ダボスで『地政学的な危機』を語った尹炳世外相
(1月30日、韓国語)で、以下のように述べています。
韓日関係(の冷却化)に関し、共同責任などと言ってはならない。
問題の原因はどこから始まったか、正確に認識することが重要だ。
原因を作った日本が問題の解決に当たらねばならない。
 韓国で語られ始めた「新思考外交」を警戒し、牽制しているように見えます。
聞かれもしないのにわざわざ「共同責任」に言及しているのですから。
いずれにせよ、この政権が変わることはないでしょう。

「反日」の次は「卑日」

ではいずれの日か、韓国が「歴史外交」をやめる日は来るのでしょうか。
鈴置:まず、来ないと思います。理由は2つです。
韓国は中国と歴史を武器に対日共闘体制を組みました。
もし韓国が「共闘から抜けたい」と言い出しても、中国は許さないでしょう。
 もう1つは、韓国人特有の「上下意識」です。
これまでの日本の足を引っ張る行動は「下から目線の反日」でした。
シム・キュソン大記者が主張するように仮にこれを脱したとしても、今度は
「上からの卑日」が始まっているのです。
 日本を何とかおとしめようと、これからも韓国が全力を挙げるのは間違いありません。
それは国家利益にかなうと広く信じられているし、国民1人1人の感情を
満足させる手法でもあるからです。

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2014年12月26日金曜日
中国の掌の上で踊り出した韓国、日本の無力化狙う韓国の「衛星外交」 。 「分水嶺の韓国」を木村幹教授と読む(3) 鈴置 高史

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2014年11月7日金曜日
朴政権ショック 米軍精鋭部隊が撤退 反日強める韓国への警告。国論分裂が始まった韓国 「戦時作戦統制権」を読者と読む
2014年11月25日火曜日
在韓米司令官「米軍の竜山基地残留は最小化する」。 在日米軍基地費用負担をしていない韓国がタダで利用しようとしている上、旭日旗にケチをつける。米軍は韓国だけではなく世界中から「静かに出て行く」
2014年11月3日月曜日
北朝鮮、弾道ミサイル潜水艦進水か。 日本が朝鮮半島を“再侵略”する?! (ヾノ・∀・`)ナイナイ 頼まれても嫌どす ・・・

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