慰安婦問題について、いろんな報道: 鈴置高史、「北朝鮮並み」の日本、「ロシア並み」の韓国。日韓は「べったり」した昔には戻らない 。「南シナ海」が揺らす米韓同盟、木村幹教授と韓国の「右往左往」を読む(4)(3)(2)。

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2015年11月12日木曜日

鈴置高史、「北朝鮮並み」の日本、「ロシア並み」の韓国。日韓は「べったり」した昔には戻らない 。「南シナ海」が揺らす米韓同盟、木村幹教授と韓国の「右往左往」を読む(4)(3)(2)。

「早読み 深読み 朝鮮半島」
木村幹(きむら・かん) 
神戸大学大学院・国際協力研究科教授、法学博士(京都大学)。
1966年大阪府生まれ、京都大学大学院法学研究科博士前期課程修了。
専攻は比較政治学、朝鮮半島地域研究。
政治的指導者の人物像や時代状況から韓国という国と
韓国人を読み解いて見せる。
(ミネルヴァ書房、第13回アジア・太平洋賞特別賞受賞)と
(同、第25回サントリー学芸賞受賞)。
一般向け書籍に『朝鮮半島をどう見るか』(集英社新書)、
韓国現代史』(中公新書)がある。
(ミネルヴァ書房)で第16回 読売・吉野作造賞を受賞した。
ホームページはこちら

「北朝鮮並み」の日本、「ロシア並み」の韓国
木村幹教授と韓国の「右往左往」を読む(4)

2015年11月12日(木) 鈴置 高史
前回から読む)3 4 5
 米国の引力圏を脱し、中国を周回し始めた韓国。
では、その韓国と日本はどう向き合うのか。
神戸大学大学院の木村幹教授と考える
(司会は坂巻正伸・日経ビジネス副編集長)。

Cold Peace
木村
:「日韓関係はべったりとした昔には戻らない」。

 こう言い続けてきましたが、ようやく政治家や官僚の方々
――日本の政策を決める人々に理解してもらえるようになりました。
 日韓は米国を媒介とした準・同盟国でなければ友好国でもない――。
この現実を前提に新たな関係を考える必要があるのです。

鈴置:そう言えば、ジョン・ホプキンス大学の

ケント・カルダー(Kent Calder)教授が
最近、木村先生と似た議論をしています。
 日韓関係をロシアと隣国との関係に見立てる意見です。
朝鮮日報がインタビューし
韓日が不信を克服したいのなら、首脳の政治的な勇気が要る
(10月31日、韓国語版)という記事で紹介していました。

木村:ケント・カルダー教授は日韓関係の1つの落とし所を
「Cold Peace」と表現しています。
「信頼関係は存在しないものの、紛争にも至らない
平和的な状態」という意味だと思います。
 「信頼関係の構築」などという高いハードルは諦めて、
とりあえずは「紛争のない状態」を目指し努力すべきだ
――とのアドバイスです。
 逆に言えば、米国のアジア専門家からそんな忠告をされるほどに、
日韓は微妙な関係になったのです

日韓戦争を予防する
鈴置:上手に管理すれば軍事的な衝突は避けられる
――つまり、下手したら戦争になるぞ、ということですからね。
ついに第3者から見ても、
日本にとって韓国は「ロシア並み」の国になったわけです。
日本でも「中国の使い走りとなった韓国は信用できない
放っておけ」という空気が定着しています
韓国を完全に無視した安倍談話に、
支持が集まったのもそのためです。

安倍談話を分析した「『韓国外し』に乗り出した安倍政権
という見出しの記事は非常によく読まれました。

木村:日本人の心情としてそうなるのは分からないでもありません。
でも「信頼関係がなくなった」からこそ、
不必要な対立を避けるための対話やメカニズム
――軍事的なものを含め、
本格的な紛争に至らないようにする予防措置が必要となるのです。
「むかつくから何の対処もしない」というなら外交なんて要りません。

鈴置:木村先生やカルダー教授のような議論の立て方をすると
「戦争を望むのか」と言う人が必ず出てきます。
 でも、これだけ日韓が疎遠になると、現実を直視し
「紛争を防ぐ」姿勢でモノを考えておかないと、
かえって衝突を起こしかねないのですけれどね。

防衛費は日本の8割
韓国は軍事的に日本の敵になり得るのでしょうか。
木村:
韓国の防衛費は増え続け、現段階で
すでに日本のそれの8割に達しています
(グラフ「日韓・防衛費の推移」参照)。

 
注)縦軸の単位は100万USドル。
SIPRI Military Expenditure Database(c)SIPRI 
2015 のデータを基に木村幹教授が作成 

 念のために付け加えれば、
韓国が意図的に防衛費を拡大させた結果ではありません。
韓国のGDPに対する防衛費の割合は3%弱で固定されています。
 韓国のGDP、つまり経済規模が大きくなったからです。
経済規模が大きくなれば、当然それにつれて防衛費も大きくなります。
 日本ではこのデータはあまり知られていませんが、
昔の「貧しく弱い韓国」は軍事面でも、もう存在しないのです。


韓国の防衛費が日本に追いついたとしても、
その海軍力は極めて脆弱との評価が多いようですが……。
木村:それはそうです。
でもこの先、東シナ海や南シナ海で中国海軍と
一層厳しく向き合わねばならぬ日本とすれば、
韓国との摩擦は避けた方が得策でしょう。
余分な兵力をとられて、
中国の脅威に専念することができなくなりますから。

薄気味悪いほどの丁重さ
鈴置:その思い
――軍事的な摩擦や衝突を避けたいとの思いは、
韓国側の方が強いのかもしれません。
以下は最近、日本の安全保障専門家から聞いた話です。
毎年、韓国でのシンポジウムに参加する。
今年はなぜか異例の接遇を受けた。
米国から参加したカウンターパートよりもはるかに良い待遇で、
招待者側はしきりに日本との防衛協力を訴えてきた。
 韓国側の丁重さは、薄気味悪いほどだったそうです。
衝突の防止に加え、
日本の軍事的な能力や意図を探る目的もあるのでしょう。
敵であるほど、その情報は必要になりますから。
 自衛官OBの中には
日本の運用技術を取りたいのだろう、と見る人が多い。
韓国はF15の整備や潜水艦救難艦の運用など、
結構重要な技術を自衛隊から学んできました。
 「中国側に回った韓国」に対し、
今後は米国が「教え渋る」可能性が高いので、
日本とのパイプをなくしたくないのだ、との読みです。

木村:「韓国の丁重さ」には驚きません。
10月20日には中谷元・防衛相が訪韓し
韓民求(ハン・ミング)国防相と会談しました。
 4年振りの大臣同士の防衛対話です。
安全保障関連法に理解を求めるのが訪韓の目的でしたが、
防衛問題での交流強化でも合意しました。

「経済」ではなく「軍事」選ぶ
鈴置:10月18日の自衛隊の観艦式には
韓国海軍の駆逐艦も参加しました。
2002年の東京湾での国際観艦式に
韓国海軍は艦船を送りましたが、
自衛隊の観艦式に加わったのは初めてです。
木村:米国による「日韓関係の改善圧力」を受けた韓国は、
その糸口に「軍事」を選んだのです。
これまで日韓両国が関係改善に動く時には
必ず「経済」を使いました。
 あえて「軍事」から入ったのは極めて興味深い現象です。
日本との軍事的対立を避けたいとの思いが強い証拠だと思います。
 韓国から見ても、日本は危険な存在となっています。
歴史認識問題や領土問題で
両国の関係がどんどん悪化しているからです。
 もし、国民感情をさらに煽って領土問題などで
強硬な政策を主張する政治家が現れれば、
思いもかけない状況に陥る可能性もゼロではない。
 もちろん、今のところは日韓両国が
戦争になる可能性はほとんどないと思いますし、
両国の政治家もそれほど愚かではないでしょう。
 でも、北東アジアの情勢が不安定化していくなかで、
長期的には敵対的な関係に移行しても不思議ではないと思います。

独島を日本から守れ
鈴置:同感です。韓国紙の記事を読んでも、
書き込みを読んでも「昔のように簡単には謝らない日本」
への苛立ちで溢れています。
日韓関係が「べったりした昔」には戻らないことに、
韓国人も気がつく過程にあるのです。
木村:領有権を争う竹島も、少し前までは
日本が武力で奪い返しにくるとは
――口ではともかく心の奥底では
――韓国の人々は考えていなかったと思います。
 でも、今やそれもあり得る話と
一部の韓国人は考えるようになりました。
なぜなら、日本人が韓国を信じられなくなっているように、
韓国人もまた日本を信じられなくなっているからです。
 つい最近も「竹島の隣の鬱陵島に、
海兵隊の実戦兵力を配置する計画」との報道がありました。
北朝鮮対策だとの説明が表向きは付いていますが、
日本を意識したのは間違いありません。

笑いながら「日本は仮想敵」
鈴置:聯合ニュースの
韓国軍 鬱陵島に海兵隊配置を推進=独島防衛と対北圧迫
(11月6日、日本語版)ですね。
「日本」とは名指ししていませんが
「外部勢力の独島(竹島)侵攻に対する強力なメッセージ」
と書いているところを見ると、対日防衛用です。
 そもそも見出しで
「独島防衛」が「対北圧迫」より前に置いてあります。
韓国人の本音が垣間見えます。
 1990年代初め――冷戦末期に、
韓国国防部が白書で日本を仮想敵扱いしたことがあります。
関係者に「ひどいじゃないか」と言ったら、
にこにこ笑いながら「我慢してくれ」。
 北朝鮮は本当の敵だから、
今更、白書で敵と強調しても予算は増えない。
中国やソ連とはこれから国交を結ばなければならないから、
余計なことは書けない。
ここはひとつ日本に協力してもらい、
敵ということになってもらわねば困る――というのです。
 当時は予算獲得用に「日本は仮想敵」と言っていた。
誰もそうは思わないから、安心してそう言っていたのです。
この頃は実に深い“信頼関係”があったのです。

米軍は助けてくれない
「日本が攻めてくる」と考える韓国人が結構いるのですね。
鈴置:朴槿恵(パク・クンヘ)政権は中国と一緒になって、
日本の集団的自衛権の行使容認や
安全保障関連法案に否定的な姿勢を打ち出しました。
 それを支持した韓国メディアが
「日本は戦争できる国になる。
真っ先に襲われるのは韓国だ」と煽ったことが効いたと思います。

木村:韓国の人々が日本を
本格的に仮想敵の1つと考えるようになった理由はいくつかあります。
まず、彼らが今の日本社会の変化を
「軍国主義への回帰」だと考えていることです。
その証拠に日本は韓国に対し何やら強気になってきた
――ように彼らには見える。
 さらに加え米韓同盟が揺れていることも、
韓国人の対日警戒感を加速しています
(「『南シナ海』が揺らす米韓同盟」参照)。
 米韓同盟が強固なら、日本とも同盟を結ぶ米国が
日本の軍事的な挑発にはブレーキをかけてくれることが期待できた。
 でも米韓同盟がこれ以上、悪化すれば米国はいざという時に、
韓国の側に立って動いてはくれないかもしれない。
現実はともかく米韓同盟への不安は、
日韓関係に対する不安にも繋がっています。

対馬を占領すればよい
鈴置:韓国の保守系サイトで面白い記事を見たことがあります。
「独島に日本が攻めてくるかもしれない」と反日を煽り
日本の安保法制に反対する人に対し
「そんなことはあり得ない。落ち着け」と諭した記事でした。
 筆者は「日韓関係は重要だ。
つまらぬ反日をやめよ」との意図から記事を書いていました。
しかし「日本の侵攻はあり得ない」理由の1つに
「仮に独島を取られたら対馬を占領し、
島民を人質に独島返還を交渉すればよいから」を挙げていました
 これを日本人が読んだら
日韓関係はさらに悪化するだろうな、と思ったものです。
対馬攻撃論の背景には、韓国で最近高まる
「対馬・韓国領土論」が背景にあります。
日韓の領土紛争のタネは竹島に留まらないのです
(「『対馬は韓国のものだ』と言い出した韓国人」参照)。

木村:先ほど鈴置さんは
「日本にとって韓国はロシア並 みの国になったか」
との感慨を漏らしました。
一方、韓国は日本を「北朝鮮並み」に扱うようになっています
金大中(キム・デジュン)、盧武鉉(ノ・ムヒョ ン)の進歩派政権は、
危険な北朝鮮を対決ではなく、融和政策で抑え込もうとしました。
 「厳しい北風ではマントを脱がせることはできないが
暖かい太陽なら……」というわけです。
今度は日本に対し「太陽政策」を始めたように思われます。
ただし、本当にいい関係を作れるとは考えておらず、
あくまで計算づくの戦略として、です。

日本の頭を撫でる

「日本は北朝鮮並み」ですか?!
鈴置「日本人は野蛮で強大な軍事力を持つ。
だから常に侵攻意図がないか調べ、
頭を撫でておく必要がある」というのが韓国の伝統的な日本観です。
昔から本音ベースで「日本は乱暴者」なのです。
 柳成竜(ユ・ソンヨン、1542-1607年)という
文禄・慶長の役(1592―1593年、1597―1598年)
当時の朝鮮の宰相がいます。
この戦争――朝鮮の呼び方で言えば、
壬辰倭乱を詳細に記録した『懲毖録』(ちょうひろく)を書きました。
 柳成竜は敗戦の原因を、日本を軽んじて
その動向を見極めようともせず、
軍備も怠っていた当時の朝鮮王朝に見出します。
 そしてこの本の冒頭には、彼よりも
130年ほど前の宰相、申叔舟
(シン・スクチュ、1417―1475年)が死の間際に、
王に言い残した言葉を記しています。

以下です。
願わくば、わが国が日本との平和関係を
失うことのありませんように
(東洋文庫『懲毖録』7ページ、
朴鐘鳴=パク=・チョンミョン訳)。 
1443年、若き申叔舟は朝鮮通信使の一員として
室町時代の日本を訪れた経験がありました。
1471年に刊行した『海東諸国紀』では
日本の軍事力の強力なことと、
上手になだめすかす重要性を説きました。

朴政権は壬辰倭乱を招く
日本人は野蛮だから、
乱暴してこないよう頭を撫でておくわけですね。
鈴置:その通りです。いまだに韓国の新聞では
「何をしてくるか分からない日本」への警戒を呼び掛ける際
懲毖録』か『海東諸国紀』を引用することが多い。
「そろそろ……」と思っていたらやはり、
2冊とも引用する記事が登場しました。
 尹平重(ユン・ピョンジュン)韓神大教授が
朝鮮日報に寄せた「日本、その永遠の烙印
(11月6日、韓国語版)です。
以下がポイントです。
海東諸国紀』の序文で申叔舟は「外敵と向き合う方法は、
外征ではなく内治にある」と強調した。
日本を「力が非常に強い」国と規定した上で、
将来の安全保障の危機に対処するためにも
朝廷の綱紀を正すことが最優先課題だと力説したのだ。
およそ100年後に壬辰倭乱を招くことになった
朝鮮王朝の国政の乱れを予見した記述であり、
2015年現在の朴槿恵政権における、
外交・安全保障チームの総てに渡る乱脈への警告としても読める。
壬辰倭乱を省察した柳成竜
「日本と近しく」という申叔舟の遺言を『懲毖録』の冒頭に載せた。
血と涙の遺言は、21世紀の今も有効だ。 
なお、尹平重教授は引用部分で日本を
「外敵」と上品に表現していますが、
朝鮮総督府が昭和8年に出版した『海東諸国記』
国立国会図書館のデジタルライブラリーで見ると、
原文は「夷狄」(コマ番号6、2行目)です。 
岩波文庫版(田中健夫訳注)でも「夷狄」(14ページ)です。
 日本をなだめるどころか怒らせた朴槿恵政権への批判です。
反日から卑日へ、
そして警日へと韓国人はなかなか忙しいのです。
日中が衝突したら……
木村:日本との軍事対話により
「軍国主義化する日本」の脅威が自らに向かないようにしたい
――と今、韓国人が願っているのは間違いありません
 韓国人のもう1つの懸念は中国です。
日本と中国が尖閣諸島を巡って軍事衝突する可能性が生まれた。
それには米国も何らかの形で関与する可能性がある。
韓国には、日米VS中の争いにどうしたら巻き込まれずに済むか、
という大きな課題が突きつけられています。

やはり、日韓関係には中国の影が大きく差すのですね。
鈴置 高史  >>バックナンバー
2015年11月5日(木)3 4 5
 
11月2日、3年半ぶりに日韓首脳会談が行われた
(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)
前回から読む)
 首脳会談は開かれた。
でも、日韓は離れていく――と
神戸大学大学院の木村幹教授は言う
(司会は坂巻正伸・日経ビジネス副編集長)

韓国に期待しない日本

日韓首脳会談が11月2日に開かれました。
2国間の正式な首脳会談は3年半ぶりです。

木村:今回の会談は、日本と韓国が米中両国の間で
異なる道を歩むことを確認するものとなりました。

 日本側の発表によると、会談で安倍晋三首相は
南シナ海問題――中国の脅威を語りました。
しかし韓国側の公式発表は、
朴槿恵大統領がどう答えたかも含め、こ
の問題には一切、触れませんでした。
 会談で安倍首相も
「南シナ海」では“深追い”しなかったと思われます。
韓国とはもはや水面下でさえ、
中国の脅威を議論することが難しくなったからです。
中国への経済的、軍事的依存を深める韓国は
「中国は仮想敵」とは口が裂けても言えない状態です。
 安倍首相は会談前後の記者会見で、
かつてはよく使った
「韓国とは共通の価値観を持つ」という表現も用いませんでした。
努力次第で韓国がこちら側に
――米国や日本側に戻ってくると、
日本政府がもう、期待していないことの表れだと思います

また、蒸し返す韓国

「慰安婦」問題では
「早期妥結に向け交渉を加速すること」で日韓は合意しました。
関係改善に向け日本も動くように見えます。
木村:韓国が「年内解決」にこだわり、
それなりの案も出したので、日本政府は
いったんこれに乗ってみることにしたのだと思います。
 「『慰安婦』で日本が言うことを聞かない限り、
アベには会わない」と言い張った朴槿恵大統領は、
米国の不興を買いました。
 それと同様に、とにかくも開催に漕ぎつけた首脳会談の席上で、
安倍首相が「『慰安婦』では一切譲歩しない」と言ったら、
今度は日本が米国をはじめとする国際社会の不興を買うでしょう。
 ひょっとすると、日本は「早期解決」のため
何らかの譲歩をするかもしれません。
ただそれはかつてのような「べったりした」
日韓関係に戻るためのものではないでしょう
 首相が最近よく使うキーワードは
「将来の世代に問題を持ち越さない」です。
慰安婦問題についてもこれを目標にしているのだと思います。

鈴置:「蒸し返さないとの保証がない限り
妥協はしない」ということですね。
仮に「慰安婦」できちんと決着をつけられたら、
もう韓国にまといつかれないで済むとの思いも見え隠れします。

ハラを割って話し合える?

それは多くの日本人の思いでしょう。
木村:問題が何らかの形で「解決」してしまえば、
日本の負担は小さくなります。
そしてその後の日韓関係については別途に考えればそれで良い。
 お互いをうとましく思っている夫婦を想像下さい。
もう、食事さえ別々にとるようになっている
だけどまだ、財産分けで合意できていない。
 この夫婦がそれを解決したら、
夫婦はお互いに次のステージに入ることができます。
離婚したければ離婚すれば良いし、
そのまま籍を残すならそのままでも良い。
自分たちの利益に沿って自由に判断すればいいだけです。
 安倍政権の対韓政策は明らかに変化してきました。
スタート当初は河野談話の見直しを検討するなど、
韓国に対し強気の姿勢で挑みました。
逆説的な言い方ですが、
これは韓国へのなにがしかの期待があったからです
 2、3年前は
「ハラを割って話し合えば韓国が変わるかもしれない」
あるいは「韓国と手を携え、膨張主義の中国に対抗する」
などという発想が日本政府にも残っていた。
 でも、安倍政権は次第に韓国への期待と関心を失っていきました
「韓国には大きな期待をしない」時代に
入ったと言えるかもしれません。
そして、だからこそ、面倒な問題はさっさと解決したい。

中国とさえ向き合えば良い
鈴置:関係改善のためではなく、
“手切れ”のための問題解決――ということですね。
安倍政権の中枢に詳しい人によると、
2014年夏頃から
「韓国が中国側に行くとの前提でモノを考えねばならない」
と枢要な地位の人が語り始めていたそうです
 今や、日本の外交専門家の多くが
「日本は主敵たる中国とどう向き合うかを決めれば十分だ。
中国のお先棒担ぎの韓国は『日中』の間合いを見て
日本との関係を決める。
日韓関係は日中関係の従属変数に過ぎない
――と考えています。
 ことに2014年11月、朴槿恵政権が
「日中韓首脳会談を開こう」と突然に言い出したので、
専門家はその思いを強くしました。
 それまで韓国は「日本を孤立させた」と快哉を叫んでいた。
そこに寝耳に水の日中首脳会談の開催が決まった。
韓国メディアは「我が国こそ孤立している」と
一斉に政権を批判しました。
 中国の顔色を見て
日韓首脳会談を拒否していた朴槿恵政権は焦りました。
そして「日中韓」を開くとの名分で、
日韓首脳会談の開催を画策したのです。
それが1年後の2015年11月に、
ようやく実現したわけです
(「中国の掌の上で踊り出した韓国」参照)。

木村:それに加え、米国の働きかけもありました。
米国は韓国に2つ宿題を出していた。
1つは日本との関係改善
――具体的には首脳会談開催です。
もう1つは「南シナ海」での米国支持です。
後者に比較すれば容易で、
自分も必要だった前者を選び、米国に提出した格好です。

日韓関係はどんどん悪くなる
鈴置数年前まで「文化、人的交流が進んでいるので
日韓関係の先行きは明るい」との主張が声高に語られていました。
それに対し木村先生は「おいおい、待てよ」と警告を発しました。
当時は「相当につむじ曲がり」と世間から見なされたと思います。

2012年8月3日の日経ビジネスオンラインに載った
当時としてはかなり刺激的な見出しでした。

木村:あの頃まで「人的交流による関係改善論」が
真顔で語られていました。
事実とは関係なしに
「若者が交流すれば日韓は対立を乗り越えられる」
となぜか信じられていたのです。
 でも今や、そんな期待を語る人は一部の韓国専門家を除いて、
ほとんどいなくなりました。
日韓が異なる世界に住み始めたという現実を、
多くの人が理解したからです。
 雑誌に「韓国は放っておけ」とはっきり書く研究者も出てきました。
今の日本社会の韓国に対する雰囲気を象徴的に示しています。

別段、韓国がなくても困らない
鈴置8月24日発表の日経の世論調査によれば
「日韓首脳会談は急ぐ必要はない」との意見が47%。
「早く開くべきだ」の39%を8%ポイント上回りました
(「中韓との首脳会談開催、見方割れる 本社世論調査」参照)。
 首脳会談を開いても関係が改善するわけでもない、
あるいは日韓関係が悪くても別段困らない
――との日本人の率直な思いがうかがえる結果です。
 日本人の多くは、韓国が「慰安婦」を蒸し返すので、
その解決は容易ではないと考えるようになった。
 そして仮に「慰安婦」が解決しても、
米国と中国ブロックに分かれて住む日韓の
潜在的な敵対関係が解消するわけでもない
――との認識も定着し始めたのだと思います。

もの分かりが悪くなった日本
木村:日韓は同盟関係にはないものの、
それぞれが米国と同盟を結んでいて
準・同盟国ともいえる関係にあった。
でも、前々回に申し上げたように、
韓国はルビコン河を流されて中国の岸にたどり着きました。
 中国側の国となった韓国は、
米韓同盟を対北朝鮮専用に限定しました。
少なくとも韓国はそう考えています。
米国から「3塁側
――敵側に座るな」と叱責されても動じません
(「『南シナ海』が揺らす米韓同盟」参照)。
 一方、膨張する中国に備え、
日本は米国との同盟を強化しました。
日韓関係は根っこから変わったのです。
日韓はルビコン河の反対側の岸辺
――米国側と中国側にそれぞれ住む国になりました。
 少し前まで「日―米―韓」の関係は
「未完の三角軍事同盟」と呼ばれたものですが、
文字通り未完に終わったわけです。

鈴置日本が「未完の三角軍事同盟」を意識していた頃は、
韓国が少々無理難題を吹っ掛けてきても我慢して聞いていた。
先ほど木村先生が使った「べったりした関係」とはまさにこれです。
 でも「未完」が本当に「未完」で終わることが分かれば、
もう韓国の言うことを聞く必要もない。
ある外交専門家の表現を借りると、
韓国からはこの変化が
「もの分かりが悪くなった日本」に見えるというのです。

可愛げのなくなった韓国
 これは対句になっていまして、
日本から見ると「可愛げがなくなった韓国」――。
昔は「兄貴」とおだてながら日本に接してきた。
これも「べったりした関係」の半分を構成していましたが、
最近は上から目線で命令してくるようになりました。

「べったりした関係」が終われば、
もう韓国人にまといつかれないで済むのでしょうか。
木村:韓国人も「新しい日本」には気がつき始めました。
ただ最近、逆行する動きも観察されます。
日本のリベラル勢力が「慰安婦」でも応援してくれるはずだ、
との期待感が再び盛り上がったのです。
 国会前での安保法制反対デモが韓国で大きく報じられたことが原因です。
「極右のアベはどうしようもないが、良心派は健在だ」と
韓国の人々は考えたのです。
韓国の日本専門家からは「自民党のハト派は何をしているのか」と、
期待感を込めて聞かれもします。

日韓議員連盟を辞めよ
鈴置でも実際は、そのハト派の大物代議士の事務所に
支持者から「日韓議員連盟を脱退しろ」と電話が掛かってきて、
韓国とは距離を取ったりする時代なのですけれどね。
 韓国が「慰安婦」問題で日本攻撃の武器に活用してきた河野談話。
産経とFNNの世論調査によると、
自民党支持者の59.8%が「見直すべきだ」と答えました。
 興味深いのは左派や“リベラル”にも「見直し派」が結構いることです。
社民党支持者では55.6%と過半数。
公明党が47.9%、民主党が41.9%、共産党は35.3%でした。
 産経の
広がる『河野談話見直し』賛成、リベラル・左派支持層にも
(2014年7月1日)からの引用です。
 「済州島で強制連行」との記事は誤報だったと
朝日新聞が取り消す前の調査ですから、いずれの数字も
今はもっと高いと思われます
韓国人の期待を裏切ってしまいますが。

国家の財産を私物化

結局「慰安婦」は解決するのでしょうか。
鈴置しないと思います。
「慰安婦」に代表される歴史問題は、
韓国にとって貴重な財産です。
韓国の政権は不安定な5年の単任制。
政権は自分に向かう国民の不満を逸らすために、
日本との紛糾を起こす必要があります。
 もちろん外交上も「慰安婦」など歴史問題は
日本攻撃用の戦略兵器です。
日本が反論しにくい「歴史」を持ち出してこそ、
様々の要求をのませることができるのです。
 ただ、スタート時から「慰安婦」を掲げた朴槿恵政権に対しては、
韓国内から批判がありました。
貴重な対日攻撃カードを乱用すると、
日本人も怒り出して効き目がなくなる。
朴槿恵政権は国家的な財産を私物化し
使い尽くしてしまう、という理屈です。

木村日本に対し最初から最強硬姿勢をとったので、
その後の手がなくなった、というのはその通りですね。

具体案を示さない朴政権
鈴置:朴槿恵政権も、
この批判は承知していると思います。
これもあって、自分からは具体案を示さないのです
 首脳会談の直前に朴槿恵大統領は、
毎日新聞との書面インタビューで以下のように答えています。
毎日新聞(東京本社版)の10月30日8面に掲載された
「一問一答 要旨」から引用します。
・日本政府が、被害者に受け入れ可能で、
韓国民が納得できる解決案を
できるだけ早く提示することが重要だ。
 具体的な解決案を自らは示さず日本に提示させておけば、
妥結した後に「やはりあれでは韓国人は納得できなかった」と
蒸し返すことができる仕組みです

木村韓国政府が自分で解決案を示さないのは、
慰安婦の支援団体を説得する自信がないためでもあると思います

動くゴールポスト

これが「動くゴールポスト」ですね。
でも、今後は韓国を徹底的に無視すればいいのでは?
鈴置:もう1つ、日本を攻撃する国ができました。
中国です。
表「中韓の『慰安婦共闘』」をご欄になると分かりますが、
両国は2014年7月の首脳会談で
「慰安婦カード」をシェアすることに正式に合意しました。

中韓の「慰安婦共闘」
2014年7月3日
中韓首脳会談で「慰安婦の共同研究」に合意。
共同声明の付属文書に盛り込む
聯合ニュース・韓国語版
2014年12月15日
韓国政府系の東北アジア歴史財団と、
中国吉林省の機関、档案局(記録保管所)が
慰安婦問題関連資料共同研究のための了解覚書
(MOU)を締結(聯合ニュース・日本語版
2015年8月15日
中国国家公文書局が『「慰安婦」
--日本軍の性奴隷』第1回文献テレフィルムを
公式サイトで公表(人民網日本語版
2015年9月22日
サンフランシスコ市議会が
「慰安婦碑または像の設置を支持する決議案」を
全会一致で採択。運動の中心となったのは中国系団体
産経新聞
2015年10月12日
中国外交部の華春瑩副報道局長、
旧日本軍の慰安婦に関する資料について
「ユネスコ世界記憶遺産への登録申請を
他の被害国と共同で進める方針」
聯合ニュース・日本語版
2015年10月13日
韓国外交部の魯光鎰報道官、
慰安婦資料のユネスコ世界記憶遺産に
中韓が共同で登録申請することに関し
「推進中の民間団体が判断すべきだ」。
推進中の民間団体とは女性家族部傘下の財団法人、
韓国女性人権振興院(聯合ニュース・日本語版
2015年10月28日
「中韓の慰安婦像2体」をソウル城北区に設置、除幕式。
中韓の彫刻家が製作し、両国市民団体が支援(産経新聞

今や、韓国の背中を中国がつついて日本を攻撃させています。
仮に韓国が米国の顔色を見て「慰安婦」で日本と妥協を考えても、
中国が許すかは疑問です。
 もちろん、中国自身も対日歴史攻撃に乗り出しています。
ユネスコの記憶遺産に「南京大虐殺文書」を登録したのがその例です
(「大陸と付き合ってろくなことはない」参照)。

「妥結」が失敗したら
木村:「慰安婦」の解決は、日韓両国の世論が
強硬姿勢をとっている以上、容易ではないと思います。
もちろん、今回の日韓首脳会談で示された
「早期の妥結」がなされれば話は違ってきますが、
逆に失敗に終われば、両国の間には
更なる諦めに近い失望が広がっていくでしょう。
 日本政府は「韓国はまたゴールポストを動かした」と言い、
韓国政府は「日本は誠意を見せていない」と言う、
お馴染みのやり取りが展開されることになります。
そして両国の世論は
それを白けた雰囲気で見守ることになるのだと思います。
 だからこそ、今回の首脳会談で合意された「妥結」が
失敗に終わった場合にも、備えておかなければならないと思います。


それでもまだ、韓国に付き合わなくてはならないのですか?
(次回に続く) 
「南シナ海」が揺らす米韓同盟 By 鈴置 高史
木村幹教授と韓国の「右往左往」を読む(2)
2015年10月30日(金) 3 4 5
鈴置 高史 >バックナンバー

前回から読む)
2015年10月29日木曜日
鈴置高史、ルビコン河で溺れ、中国側に流れ着いた韓国
 木村幹教授と韓国の「右往左往」を読む(1)。
蟻地獄の中でもがく韓国 
 「南シナ海」を踏み絵として突きつけたオバマ。
大陸と付き合ってろくなことはない。 
ニューノーマルになった日本人の「韓国嫌い」 
<特別編>連載150回を振り返る(2)(1) 

 「南シナ海」でアジアに緊張が走る中、
韓国は米国陣営から中国側へとさらに軸足を移した。
米韓同盟はどうなるのか。
神戸大学大学院の木村幹教授と考える
(司会は坂巻正伸・日経ビジネス副編集長)。 

洞ヶ峠の韓国

「南シナ海」で米中の緊張が高まりました。
鈴置:中国の軍事基地化は許さない
――と、米国は行動に出ました。
10月27日、中国が暗礁を埋め立て、滑走路を作っている
南シナ海の人工島周辺の12カイリ内に米国は駆逐艦を進入させました。
米国は今後もこのパトロールを実施する方針です。
 中国は、そこは領海であるとして反発しており、
軍事的な衝突が起きる可能性もあります。
韓国がいつまで米中間で二股外交を続けられるのか、
注目を集めることにもなりました。
 日本とフィリピンは米国を断固支持する姿勢を明らかにしました。
しかし、韓国政府は
「米中どっちつかず」の姿勢を見せたに過ぎません。
 中央日報の
青瓦台『南シナ海の紛争、国際規範に沿って平和的解決を』
(10月28日、日本語版)によると、
10月28日になって匿名の政府高官が以下のように語りました。
韓国各紙によると、記者の質問に応える形でした。 

この地域での紛争は国際的に確立された規範により

平和的に解決されるべきだ。
南シナ海地域の平和と安定に影響を及ぼす

いかなる行動も自制することを(韓国は)
国際会議などのあらゆる機会を通じて強く求めてきた。
南シナ海地域は韓国の輸出物流量の30%、

輸入エネルギーの90%が通過する重要な海上交通路で、
我々の利害関係が大きい地域だ。

 「平和と安定に影響を及ぼす
いかなる行動も自制すべきだ」という部分は、
南シナ海を軍事基地化する中国だけではなく、
そこに駆逐艦を送った米国も悪い、
と読める仕掛けになっています
要は洞ヶ峠を決め込んだのです。

「現実が間違っている」
木村:韓国からすれば
「現実が間違っている」と叫びたいところでしょう。
朴槿恵政権は「米中は対立しない」との前提で
外交政策を組み立ててきたからです。
 韓国の安全保障を最も左右する北朝鮮問題では、
米中の利害は「北朝鮮の暴発を防ぐ」ことで一致している。
世界の他の地域でも、米中は「G2」として
協調しながら問題を解決する――ことに、韓国ではなっていました。
 米国や中国でさえあまり使われない、
米中協調を示唆する「G2」という単語が
韓国では頻繁に使われるのも、それを示しています。
 ところがこの前提に反し、南シナ海の問題をめぐって、
米中が厳しく対立し始めた。韓国は頭を抱えている状態です。
鈴置:韓国の中国傾斜を疑う米国は予め
「南シナ海の踏み絵」を突きつけていました。
10月16日、米韓首脳会談後の共同会見で
オバマ大統領は「韓国が中国側でないというなら、
中国の無法を批判しろ」との趣旨で発言したのです。
 「米韓同盟は盤石だ」とのお墨付きを貰いに来た
朴槿恵(パク・クンヘ)大統領目の前で、です
(「蟻地獄の中でもがく韓国」参照)。
Remarks by President Obama and President Park
 of the Republic of Korea in Joint Press Conference」
(10月16日、英語)の該当部分を翻訳します。

朴大統領にも伝えたのだが、

1つだけ、中国に言い続けねばならぬことがある。
それは中国が国際的な規範とルールに従うことだ。
もし中国がそうしない時には、韓国が
我々と同様にしっかりと声を上げて批判することを望む。
なぜなら、米韓両国は第2次世界大戦の後から続いてきた

国際的な規範とルールに恩恵を被ってきたからだ。
我々はそのルールが守られなかったり、

あるいはどこかの国が大きいからと言って有利になるのを望まない。
それは韓国を含む、どの国にとっても良いことではない。

 地域は特定しませんでしたが批判の対象が、
タイミングから見て、南シナ海であることは疑う余地がありません。

3塁側に座る韓国
木村:野球の試合に例えれば
「おまえ、3塁側――敵側に座るつもりか」
と米国は怒った形です。
鈴置: 10月19日、尹炳世(ユン・ビョンセ)外交部長官は
国会答弁で
「オバマ大統領の会見では『南シナ海』の『南』の字も出なかった」
「(オバマ大統領から踏み絵を迫られたというのは)
一部メディアの誤解だ」と述べました。
 「南シナ海への米駆逐艦進入」に先立ち、
米国の踏み絵に対しては徹底的にとぼける作戦に出ることを
韓国政府は決めていたのです。
韓国世論も、この「米国側には立たない」姿勢を
大筋で支持すると思われます。

木村:そうでしょうね。
韓国には中国とは準・同盟国になった雰囲気がありますから。
9月3日の天安門の軍事パレードの中継を、
YTNという韓国のニュース専用チャンネルで見ていて驚きました。
 中国のミサイル部隊が天安門広場を行進すると、
司会者と解説者が「これはグアムまで届きます」
「米国の空母を攻撃するミサイルです」などと、
他人事のように語り合ったのです。
 天安門の上空を中国製の空中給油機などが飛ぶと
「なかなか性能がいいものです。
我が国も導入を検討したらいい」といった会話にさえなりました。
韓国人はもう
「中国に攻撃される自分」の姿さえ想像しにくくなっているのです

二股外交は限界だ
鈴置:ただ、一部メディアからは「二股外交は限界に達した。

我々はいったい、どうすればいいのか!」
との悲鳴が上がっています。
 保守系紙ながら朴槿恵政権に厳しい東亜日報は

10月21日、社説
『南シナ海は誤って解釈』と尹炳世長官、メディアは馬鹿というのか
を掲載しました。結論部分は以下です。
韓国は中国の顔色を見て

TPP(環太平洋経済連携協定)への参加の機会を逃した。
それに続き、終末高高度防衛ミサイル(THAAD)配備問題でも
「戦略的曖昧性」を駆使する。
だから米国で「韓国の安保ただ乗り論」が出てくるのだ。
尹長官は真実を覆い隠し、朴大統領に対しても

「(二股外交により
米中双方から大事にされているとの)外交祝福論」
の大風呂敷を広げたのかもしれない。
戦略的利害が異なる米中間で実際に衝突が起きた場合、

韓国は絶体絶命の選択を迫られるかもしれない。
外交部が洗練された国家戦略を練るどころか大統領を欺き、
メディアを非難する国が危機に陥らないか懸念する。

 韓国は米国から中国側にどんどん傾いています。

中国と米国の要求が異なる時には、
ほとんど中国に従います(「米中星取表」参照)。

それに伴い、
人々の意識もどんどん中国寄りになっている。
世論調査でも明らかです(「米中どちらが重要か」参照)。
ただ、軍事同盟だけはいまだに米国と結んでいる。
実に奇妙な状況です。


グラフ●米中どちらが重要か
米韓同盟は長いロープ
韓国は米韓同盟を打ち切るつもりでしょうか?
 
木村:韓国は米韓同盟をやめるつもりはありません。
北朝鮮への備えに米韓同盟は依然、大事だからです。
中国とはいくら親密になっても同盟関係はないので、
いざという時に守ってくれない。
だから米国との同盟関係は手放したくない。
 前回、「ルビコン河に飛び込んだ韓国は急流に流され、
ついに中国側に打ち上げられた」と申し上げました。
この例えに付け加えると、中国側の岸に横たわりながら韓国は、
まだ米国側の岸から伸びている
長いロープの端をしっかり握っているのです。

ロープとは米韓同盟のことですね。
木村:その通りです。ロープを手繰ることにより、
米国側に戻る可能性はたぶんもうない。
でも、放してしまうのは不安過ぎる。
だからロープを時々引っ張っては、
まだ米国が引っ張り返してくれるのを確かめている。
 朴槿恵大統領が訪米した際、韓国政府は
「米国と近しいことを示す写真」を異様に欲しがった。
「米韓同盟は健在だ」
とのオバマ大統領の談話を得ようと必死になった。
国民に対し「まだロープはつながっている。
安心しろ」と示す必要があったのです。

ロープを切ろうとする日本

鈴置:米韓首脳会談の日に朝鮮日報のワシントン特派員が、
日本の特派員を批判する記事を書きました
「大統領の訪米を前に、
記者会見で米韓関係がよくないとの談話を
米政府から引き出そうとした」というのです。
 「韓米友好に唐辛子粉を振りまく日本の記者たち
(10月16日、韓国語版)です。
木村先生の例え話を使えば
「貴重なロープを悪い日本がたち切ろうと画策している。
けしからん」とこの新聞は怒ったのです。
相当筋違いの怒りですが。
 こっそりと中国陣営に軸足を移している。
でも、それがばれて
米国から同盟を打ち切られないかとびくびくしている。
韓国人のそんな不安が日本への八つ当たりとなったのでしょう。

米国はどうするのでしょうか。
木村:「南シナ海の踏み絵」と言っても、
米国が韓国に求めたのは先の「対中批判に加われ」程度です。
いずれ米国は日本や豪州には西太平洋での
米国との広範な共同作戦を求める可能性がある。
一方、韓国は外洋作戦用の海軍を持ちません。
だから、そこまでの関与は期待されないのです。
 野球の例えをもう一度使えば、
韓国は監督たる米国から
「選手として参加しなくていいから、
せめて1塁側の観客席に座って応援しろよ。
それが同盟国として最低限の義務だろう」と言われたのです。
 米中の対立の中で、韓国は同盟国とはいっても、
その程度の存在になっています。
期待が小さいからこそ、
1塁側と3塁側の間のバックネット裏をウロウロしていても、
米国から叱責が飛ぶ程度で済むのです。

「ただ乗り」どころか「裏切り」
鈴置:ただ「南シナ海」は韓国にとって、
AIIB(アジアインフラ投資銀行)やTPPとは
比べものにならないほど本質的な「踏み絵」です。
在韓米軍基地にTHAADを配備する問題と比べても、そうです。
 南シナ海での「航行の自由」には海洋国家、
米国の死活的な利益がかかっています。
それは単なる原則論ではありません。
米中間の核戦力バランスを根本的に変える、
極めて現実的な問題です。
 中国は南シナ海を、
米国とその同盟国を狙う
核ミサイル原潜の根城にするつもりです。
それにより核の第2撃能力――報復能力を持てるのです。
これを持った中国が一気に傲慢になるのは確実です。
 だから米国は
中国の南シナ海の「私物化」を防ぐべく必死なのです。
冷戦期、ソ連の核ミサイル原潜が
オホーツク海を根城にできないよう、
日米が協力してこの海を制圧したのと同じです
 「南シナ海」で米国の側に立たない韓国は、
「安保ただ乗り」どころか「裏切り者」と見なされるでしょう。

被害者の韓国
韓国はそれを理解しているでしょうか。
鈴置:安全保障の専門家は十分に承知していると思います。
ただ、普通の人は
「遠い海の領土・領海紛争」程度の理解です。
新聞には「遠い海での縄張り争い」
「米国や日本と、中国の紛争に
巻き込まれそうになっているかわいそうな私たち」
といったノリの読者の書き込みが目立ちます。
 海洋国家ではないので韓国人は「海」に関心が薄い。
冷戦期にオホーツク海でソ連の原潜を
死に物狂いで制圧した記憶も、もちろんない
 そんな韓国人の意識もあって、
朴槿恵政権は「南シナ海」を軽く扱い、
米国との関係を決定的に悪くしていく可能性が大きいと思います
 米韓同盟は大きな矛盾を抱えていました。
米国と韓国の主敵ははっきりと異なった。
米国の主敵は中国であって、北朝鮮ではありません。
 一方、韓国の主敵は北であって中国は敵どころか、
非常に親しい友好国です。
協商相手と言ってもいい。
その矛盾が「南シナ海」で一気に噴き出てくると思います。

お荷物の韓国を助けるか?
米国にとって、

韓国と軍事同盟を続ける意味はあるのですか?
木村:存在することに意味があると思います。
鈴置さんが指摘するように、主敵が食い違う
「ねじれ切った」同盟になりました。
しかしまだ、北朝鮮は米国にとってもなにがしかの敵ではあります。
 北朝鮮の暴発を抑えるためにはやはり、
米韓同盟の存在が意味を持ちます。
朝鮮戦争の引き金となった「アチソン声明」を思い出して下さい。
 韓国が防衛線の外にあると
米国が表明した瞬間、戦争が起きた。
結局、当時は韓国と同盟を結んでいなかった
米国が関与する羽目に陥ったのです。
ねじれていようと、同盟がないのとは大違いです。

鈴置:だから韓国は、北朝鮮の脅威を言い募ることで
同盟を堅持しようとするのですね。
しかし、米国にとって
韓国がどんどん「お荷物」になっていくのも事実です。
自分の主敵の言いなりで、いざという時は
3塁側――敵側に座る。

木村:でも、米国が「ただ乗り」として韓国を切り捨てれば、
他の米国の同盟国に不安を呼ぶでしょう。
同盟関係のない国はもっと不安になる。
「米国はもう東アジアについて
責任を持たない国なのだ」との動揺が広まる。
 するとドミノ倒しのように、
米国の同盟ネットワークが崩れていく可能性があります。
かつて朝鮮戦争に米国が参戦したのも、
それを恐れてのことでした。

米韓同盟は「中朝」に似てきた
鈴置:朝鮮戦争の開戦時には米韓同盟はまだなく、
米国には韓国を助ける義務はなかった。
でも助けないと、欧州の同盟国がソ連に傾くとの懸念を
当時の米国は強めた……。
 もっとも今の韓国は自ら「裏切り者」のメッセージを
世界に発信してしまいました
「南シナ海」はもちろん、
大統領の天安門の軍事パレード参観など
その「証拠」は山ほどあります。

 第3者から見ても
「韓国が勝手に同盟を壊している」のであって、
「米国が切り捨てた」ことには、
もうならないのではないですか?
木村:そうなのですけど、
大国は大国としての度量が求められるものです。
むしろ、「あれほど失礼なことを繰り返す韓国」
でさえも米国は包容している
――そういうイメージが大事なのです。
 今の米韓同盟のあり方は中朝同盟と似ています。
北朝鮮は中国の言うことを聞かず、その顔に泥を塗るばかり。
核開発を進めることで中国の安全まで脅かす。
でも、中国は北朝鮮を切り捨てない。
 同盟を結んでいる間はある程度は、
ですが北朝鮮をコントロールできる。
やめてしまえば、北朝鮮はもっと好き勝手やるでしょう。つ
まり米国同様に中国も「度量」を試されているわけです。
大国は大変なのです。

米中が談合して中立化
鈴置さんの近未来小説『朝鮮半島201Z年』は、
米中が談合して、それぞれが結んでいる同盟を打ち切り、
朝鮮半島全体を中立化する――と予測しました。
木村:それもあり得ない話ではありません。
しかし、世の中には「ややこしくなる」から
「いじらない」こともあります。
加えて、米韓同盟では日米同盟同様、駐屯軍の経緯は
「守ってもらう側」が負担していますから、
米国にとって「おいしい」ところもある。

鈴置:不完全だけど何とか均衡しているものを、
きちんと整理しようと下手に動かすと
状況を悪化させるかもしれない……。

木村:少しきつい言い方をすればそうなりますね。
現在の国際社会において、朝鮮半島は触って得にもならないし、
楽しいところでもない。
けれど、切り捨てるとそれはそれで影響が出る。
 だからこそ米国は韓国、中国は北朝鮮をそれぞれ
「困った奴だ」と心の底では思っても、そのままにしている。
 我慢という点においては、中国は北朝鮮については随分長い間、
我慢しているのです。その「相場観」から言えば米国も、
もうちょっと頑張って我慢しても不思議ではないということになります。

米国は競争相手を必ず倒す
鈴置:南シナ海で対立を深める米中の間で、
興味深い論争が起きました。
10月23日、ソウルで開かれたシンポジウムのことです。
 「大国は生存を賭けて必ず覇権を争うものだ」
と主張したジョン・ミアシャイマー(John J. Mearsheimer)
シカゴ大学教授がそこに招かれ、以下のように語りました。
(10月24日、韓国語版)を引用します。
中国の台頭に対抗し、米国と中国に隣接する各国が
反中連帯を結成、
アジア地域で激しい安保競争が発生するだろう。
中国はアジアで「ゴジラ」になろうとしている。
米国はこれまで、ドイツ帝国、日本帝国、ナチスドイツ、
ソ連を滅ぼしたことからも分かる通り、
潜在的な競争相手を容認したことがない。
韓国は、米中の狭間で中間的な位置取りをしてきた。
しかし安保競争が激化すれば、
韓国は米国主導の反中連帯に加わるのか、
それとも中国に便乗するのかの選択を迫られる。
厳しい決断だが結局、韓国は米国と手を握るだろう。
中国批判は決して許さない
 韓国に
「二股外交はもう終わりにしろ。
こっちへ戻って来い」と言い渡したのです。
これに対し、胡錦濤・前国家主席の外交ブレーンとされる
北京大学国際戦略研究院の王緝思院長は
以下のように反論しました。
今後、アジア・太平洋地域で軍備競争が激化するだろうが、
北朝鮮の核問題は米中間のクッション的な役割をしている。
韓米中3カ国の関係の中で、
中国は韓国がもう少し中立的になることに期待している。
 北朝鮮の暴発を後ろから抑えているのは中国だ。
韓国はそれを忘れるな。
南シナ海で中国に敵対的な言動をしたら、
北朝鮮の抑止に協力しないぞ――との脅しです。
 すると、ミアシャイマー教授は次のように再反論したのです。
中国の台頭に伴う安保競争は朝鮮半島の統一に否定的だ。
北朝鮮は中国の重要な戦略的資産であり、
中国は
米国と手を握る韓国が主導する形の統一を絶対に許さない。
近いうちの統一は難しい。
 朴槿恵政権は
「統一に協力してくれると言うので中国に接近している」と言い訳する。
だが、それは中国のペテンだぞ――と韓国に警告したのです。
 この時期に米中2人の学者がソウルで舌戦を繰り広げたのは
「南シナ海」が韓国の岐路―
―運命を決める転換点になると見てのことでしょう。

試される日本の覚悟
木村:私も同じようなシンポジウムに招かれることが多いので、
こういう国を背負った、危ない論争には巻
き込まれないようにしたいものです。
 韓国が向き合う問題は、日本にとって他人事ではありません。
米中両国の対立が激しくなる中で、
立ち位置が試されているのは日本も同じなのです。

日本は米国と同盟を強化しました。
立ち位置ははっきりしていませんか?
鈴置:今から、日米同盟にかける日本人の決意が試されます
「南シナ海」で米国側に立った日本に対し、
中国は様々の形で脅迫を強める可能性が大です

 在中日本企業はまた、襲撃の対象になるかもしれません。
中国に住んだり、
旅する日本人への迫害も増えるかもしれません。
中国は韓国を手先に使った「歴史攻撃」も強化するでしょう。

 日本の経済界は音を上げるかもしれません。
左派系紙が
「中国との関係に配慮すべきだ」と言い出すのは目に見えています。
その中には「韓国の立ち位置を見習おう」との主張も含まれるでしょう。

 中国の下風で生きるつもりはない――との覚悟を、
日本人がどれほど固めるかがこれから問われるのです

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